防火管理者とは?甲種と乙種の違いと選任届
目次
防火管理者は、講習を受けて資格を取ったら終わり、という役職ではありません。資格を取ったあとに、消防計画を作って、訓練をして、点検の結果をまとめるという仕事が続きます。名前だけ置いてある状態だと、立入検査で最初に指摘されます。
この記事では、防火管理者について、選任が必要になる条件、甲種と乙種の違い、選任届の出し方、選任してからやることの順に整理します。必要になる条件は建物の用途と収容人員で変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所轄の消防署に確認してください。
結論:収容人員で決まる。資格より先に「対象かどうか」
防火管理者の選任が必要かどうかは、建物の用途と収容人員で決まります。面積ではありません。
| 建物の区分 | 選任が必要になる収容人員の目安 |
|---|---|
| 特定防火対象物(飲食店、物販店、ホテル、病院、福祉施設など) | 30人以上 |
| 非特定防火対象物(事務所、工場、倉庫、学校、共同住宅など) | 50人以上 |
| 自力での避難が難しい人が入所する施設 | 10人以上 |
「収容人員」は従業員数ではありません。客席の数、面積から算定する人数など、用途ごとに数え方が定められています。自分で数えると外すので、所轄の消防署で確認するのが確実です。
甲種と乙種の違い
資格は2種類あります。建物の規模で、どちらが必要かが変わります。
| 甲種 | 乙種 | |
|---|---|---|
| 対象 | 規模の大きい建物(甲種防火対象物) | 規模の小さい建物 |
| 講習 | 2日間程度 | 1日程度 |
| できる範囲 | 甲種・乙種の両方 | 乙種の建物のみ |
迷ったら甲種を取るのが実務的です。乙種で足りる建物でも甲種の資格で務められますが、逆はできません。人事異動や建物の変更があったときに、乙種だと取り直しになります。
講習の受け方
- 日本防火・防災協会や各消防本部が実施している
- 申込みは先着で、都市部は埋まるのが早い
- 受講したその日に修了証が出る形が一般的
再講習が必要になる場合があります。一定規模以上の特定防火対象物で防火管理者になっている人は、定められた期間ごとに再講習を受けることとされています。選任した日を記録しておかないと、再講習の期限が分かりません。
資格が要らない場合もある
一定の管理的または監督的な地位にある人で、所定の要件を満たす場合は、講習を受けなくても防火管理者になれる扱いがあります。ただし条件が細かいので、該当しそうなときは消防署に確認します。
誰を選任するか
「管理的または監督的な地位にある人」であることが求められます。アルバイトや、権限のない担当者では務まりません。
| 向いている人 | 向いていない人 |
|---|---|
| 施設長、支配人、店長、総務課長 | 権限のない担当者 |
| 常駐していて判断ができる人 | ほとんど建物に来ない人 |
「常駐しているか」が実質の条件です。本社の総務部長を名前だけ置いて、現地には来ない、という形は立入検査で問題になります。
交代したとき
人事異動で担当が変わったら、改めて選任届を出します。前任の名前のまま消防計画が置いてあると、訓練も点検報告も前任の名前で回ることになります。
選任届の出し方
出す書類
| 書類 | 中身 |
|---|---|
| 防火管理者選任(解任)届出書 | 建物の情報、管理権原者、防火管理者の氏名と資格 |
| 資格を証明するもの | 修了証の写しなど |
| 消防計画(作成・変更の届出) | 選任と同時か、その直後に出す |
選任届と消防計画はセットで考えます。選任だけ出して計画を出していないと、防火管理者がいるのに何も決まっていない状態になります。消防計画の作り方は消防計画の作り方にまとめています。
いつ出すか
遅滞なくとされています。実務では、選任した日から2週間以内を目安にしている施設が多くあります。人事異動の内示が出た段階で準備を始めると間に合います。
誰が出すか
管理権原者(建物の所有者や事業所の代表者など、防火管理について権原を持つ人)の名前で出します。防火管理者本人が持っていくのは構いませんが、届出者は管理権原者です。
管理権原が分かれている建物
1つの建物に複数のテナントが入っている場合、管理権原者が複数いることになります。この場合、それぞれが防火管理者を選任したうえで、建物全体をまとめる統括防火管理者が必要になることがあります。
テナントビルでここが抜けている建物は多くあります。各テナントは選任しているのに、建物全体をまとめる人がいない、という状態です。
選任してからやること
資格を取って届を出したら、そこからが本番です。
| やること | 頻度 |
|---|---|
| 消防計画を作って届け出る | 選任時。変更があるたび |
| 消火・通報・避難の訓練を行う | 特定防火対象物は消火と避難を年2回以上 |
| 消防用設備等の点検・報告に関わる | 点検は年2回、報告は1年か3年に1回 |
| 火気の使用・取扱いの監督 | 日常 |
| 避難経路・防火戸の管理 | 日常 |
| 収容人員の管理 | 日常 |
日常の3つが、実は立入検査でいちばん見られます。避難経路に段ボールが積んである、防火戸の前に什器が置いてある、というのはその場で分かります。
訓練の進め方は消防訓練の進め方にまとめています。
記録を残す
やったことは記録に残します。訓練の実施記録、日常の点検、火気の確認。立入検査では「やっていること」ではなく「やった記録」を見られます。
講習の受け方
資格が要る場合、講習を受けます。段取りは決まっています。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1 | 甲種か乙種かを確認する(建物の規模で決まる) |
| 2 | 実施機関を調べる(日本防火・防災協会、各消防本部) |
| 3 | 申し込む(先着。都市部は早く埋まる) |
| 4 | 受講する(甲種は2日程度、乙種は1日程度) |
| 5 | 修了証を受け取る |
| 6 | 選任届に修了証の写しを添えて提出する |
3がいちばんの関門です。都市部では受付開始から数日で埋まることがあります。人事異動が決まった段階で、先に席を押さえます。
費用と持ち物
受講料はテキスト代を含めて数千円程度が一般的です。顔写真が必要なことが多いので、申し込みの前に用意しておきます。
再講習
一定規模以上の特定防火対象物で防火管理者になっている人は、定められた期間ごとに再講習を受けることとされています。
選任した日を記録しておかないと、再講習の期限が分かりません。選任届の控えに受講日を書き添えて、期限の一覧に入れておきます。管理のしかたは建物の法定点検一覧にまとめています。
兼任と交代
複数の建物を兼ねられるか
原則として、その建物で管理的・監督的な地位にあり、業務を適切に行えることが条件です。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 同じ敷地内の複数棟 | 兼ねられることが多い |
| 近接した別の建物 | 距離と業務量による。要相談 |
| 遠隔地の建物 | 難しい |
「名前だけ置く」は通りません。立入検査で不在が続いていることが分かると、選任のやり直しを求められます。
交代するときの手順
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1 | 後任を決める(資格の有無を確認) |
| 2 | 資格が無ければ講習を手配する |
| 3 | 選任(解任)届出書を出す |
| 4 | 消防計画の氏名を書き換えて、変更届を出す |
| 5 | 自衛消防の各班の名簿を更新する |
| 6 | 前任から鍵・書類の束・業者の連絡先を引き継ぐ |
4と5が抜けると、書類上は交代したのに中身が前任のままになります。訓練の当日に、いない人の名前が班長として書かれている、という状態です。
引き継ぐもの
- 消防計画の控えと、平面図
- 点検報告書の束(過去分)
- 訓練の実施記録
- 点検業者の名前と連絡先
- 鍵の場所(防火戸、屋上、機械室)
業者の連絡先が最も抜けます。前任が「いつものところ」に電話していただけだと、記録に残っていません。
よくある質問
防火管理者を選任しないとどうなりますか
消防法で義務づけられているため、選任命令や罰則の対象になります。それ以上に、火災が起きたときに管理権原者の責任が問われます。
1人で複数の建物の防火管理者になれますか
原則として、その建物で管理的・監督的な地位にあり、業務を適切に行えることが条件です。距離が離れた複数の建物を1人で兼ねるのは難しい扱いになります。所轄の消防署に確認してください。
修了証を失くしました
講習を実施した機関に再交付を申請します。選任届に添えるので、届出の前に取り直します。修了証は本人のものなので、退職時に会社が預かることはできません。
収容人員はどう数えますか
用途ごとに数え方が定められています。従業員数+客席数、あるいは面積を所定の数値で割る、といった形です。自分で数えると外しやすいので、図面を持って消防署で確認するのが確実です。
防災管理者とは違いますか
別の制度です。防災管理者は、大規模な建物で地震などの災害に備えるために選任するもので、防火管理者と兼ねることが多くあります。対象になる建物は限られるので、該当するかを確認してください。
まとめ
防火管理者が必要かどうかは、建物の用途と収容人員で決まります。特定防火対象物なら30人以上、それ以外は50人以上が目安で、自力避難が難しい人の施設は10人以上です。収容人員は従業員数ではないため、図面を持って消防署で確認します。
資格は甲種と乙種があり、甲種は乙種を兼ねます。迷ったら甲種を取っておくと、建物や人事が変わったときに取り直しになりません。
そして、選任届を出したところからが本番です。消防計画を作り、訓練を年2回以上行い、点検の報告に関わる。日常では避難経路と防火戸の管理が、立入検査でいちばん見られます。やったことは記録に残します。