消防訓練の進め方|年2回の根拠と実施結果報告書
目次
消防訓練は、「集まって話を聞いて終わり」になりがちです。ところが実際の火災で効くのは、その日その場にいる人が、自分の持ち場で何をするかを体が覚えているかです。話を聞いただけでは、当日に足が動きません。
この記事では、消防訓練を、年2回の根拠、種類と組み合わせ方、当日の進め方、実施結果報告書の順に整理します。必要な回数や届出の運用は建物の用途と自治体で変わります。所轄の消防署に確認してください。
結論:特定防火対象物は消火と避難を年2回以上
回数は建物の区分で変わります。
| 区分 | 消火訓練 | 避難訓練 | 通報訓練 |
|---|---|---|---|
| 特定防火対象物(飲食店、物販店、病院、福祉施設など) | 年2回以上 | 年2回以上 | 消防計画に定めた回数 |
| 非特定防火対象物(事務所、工場、倉庫など) | 消防計画に定めた回数 | 消防計画に定めた回数 | 同左 |
非特定でも「やらなくてよい」ではありません。消防計画に「年1回」と書いたなら、年1回が義務になります。計画に書いた回数が自分の義務になる、という関係です。
消防計画の作り方は消防計画の作り方にまとめています。
事前の通知が要る
特定防火対象物では、訓練を行うときにあらかじめ消防機関へ通知することとされています。通知の様式と方法は自治体で違うので、所轄の消防署で確認します。
訓練の種類
| 種類 | やること |
|---|---|
| 消火訓練 | 消火器・屋内消火栓を実際に扱う |
| 避難訓練 | 避難経路を通って避難場所まで移動する |
| 通報訓練 | 119番へ通報する(口頭訓練または実際の連携) |
| 総合訓練 | 上の3つを一連の流れで行う |
回数を稼ぐために別々にやるより、総合訓練を年2回のほうが実務に合います。火災は「消火だけ」「避難だけ」では起きないためです。
消火訓練は「使ったことがあるか」で差が出る
消火器は、ピンを抜いてホースを外してレバーを握るという3動作です。やったことがない人は、当日にピンが抜けません。訓練用の水消火器を使えば何度でも練習できます。
消火器そのものの扱いは消火器の点検にまとめています。
当日の進め方
30分で組む
長い訓練は続きません。30分で1回を年2回のほうが、2時間を年1回より身に付きます。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 0〜5分 | 想定の説明(どこで、何が燃えたか) |
| 5〜10分 | 発見・通報(119番の口頭訓練、館内放送) |
| 10〜15分 | 初期消火(水消火器で実際に) |
| 15〜25分 | 避難誘導(経路を通って避難場所へ、人数確認) |
| 25〜30分 | 振り返り(気づいたことを1人1つ) |
最後の5分がいちばん大事です。やりっぱなしにすると、翌年も同じところでつまずきます。
想定を具体的にする
「火災が発生しました」では動けません。場所と原因を決めます。
- ×「火災が発生しました」
- ○「2階の厨房、フライヤーから出火。煙が階段室に流れている」
場所が決まると、どの階段が使えないかが決まります。使える経路が1つ減った状態で避難するのが、実際に近い訓練になります。
夜間・休日の想定も1回は入れる
人数が少ない時間帯は、体制が変わります。年2回のうち1回を「夜勤の人数で」やると、計画の穴が見つかります。
訓練で見つかる問題
実際にやると、机の上では見えないことが出ます。
| 見つかること | 直し方 |
|---|---|
| 避難口が施錠されていた | 開錠の担当と手順を決める。内側から開く構造か確認 |
| 通路に物が置いてあった | 置き場所を決め、日常の巡回で見る |
| 防火戸の前に什器があった | 什器の位置を変える。床にテープで範囲を示す |
| 館内放送が聞こえない場所があった | 拡声器を置く、その区画の担当を決める |
| 人数確認に時間がかかった | 集合場所を分ける、名簿の持ち出し担当を決める |
「避難口が施錠されていた」は、実際に多く見つかります。防犯のために施錠している出口が、避難のときには開かない。ここは訓練でしか見つかりません。
見つけたら、その日のうちに1つ直す
全部を直そうとすると止まります。その日のうちに1つだけ直すと決めると、訓練のたびに建物が良くなります。
実施結果報告書
訓練を行ったら、記録を残します。特定防火対象物では、消防機関へ報告を求められることがあります。
書く内容
| 欄 | 中身 |
|---|---|
| 実施日時 | 年月日と時刻 |
| 場所 | 建物名、実施した階・区画 |
| 訓練の種類 | 消火・避難・通報・総合 |
| 想定 | 出火場所と状況 |
| 参加人数 | 実際に参加した人数(在館者数も) |
| 実施内容 | 手順ごとに何をしたか |
| 講評・反省 | 気づいたこと、次に直すこと |
| 指導者 | 消防職員の立会いがあれば氏名 |
「講評・反省」を空欄にしないのが要点です。ここが書いてあると、次の訓練の想定が決まります。空欄だと、毎年同じ訓練になります。
写真を添える
消火器を扱っている場面、避難している場面を1枚ずつ。やった証明になるのと、次回の説明に使えます。
保管
訓練の記録は、消防計画・点検報告書と同じ束にまとめて保管します。立入検査ではこの束をまとめて見られます。報告書の扱いは消防設備点検報告書の出し方にまとめています。
参加率を上げる
訓練は、人が集まらないと成立しません。
| やり方 | 効果 |
|---|---|
| 時間を短くする(30分) | 業務を止める時間が減り、出やすくなる |
| 同じ内容を2回に分ける | シフト制の職場で全員が出られる |
| 日付を年度初めに決める | 予定に入れられる |
| テナントに早めに声をかける | ビルなら1か月前に案内 |
「全員が1回出る」より「全員が年1回は出る」を目標にすると回ります。2回に分けて、それぞれ半分ずつ出れば、年間では全員が経験します。
想定の作り方
想定が「火災が発生しました」だと、誰も動けません。場所・原因・時間帯の3つを決めると訓練になります。
想定の例(3つ)
例1:厨房から出火(昼)
- 2階の厨房、フライヤーから出火。煙が階段室Aへ流れている
- 使えるのは階段Bのみ。客席に30名
- 見どころ:階段Aが使えないことに気づけるか。客の誘導
例2:電気室から出火(夜間)
- 地下の電気室から出火。停電し、館内放送が使えない
- 在館は警備1名のみ
- 見どころ:放送が使えないときの伝達手段。1人での通報と避難
例3:隣接建物からの延焼(休日)
- 隣のビルから出火。自社の建物に煙が入ってきている
- 休日で在館は数名
- 見どころ:外からの火災に気づく経路。休日の連絡網
例2と例3は、年1回は入れたい想定です。平日昼間だけを繰り返していると、人が少ない時間帯の穴が見つかりません。
記録と写真
写真は3枚あればよい
| 枚 | 何を撮るか |
|---|---|
| 1 | 集合・説明の場面(参加者が写っている) |
| 2 | 消火器または通報の場面(実際に扱っている) |
| 3 | 避難場所での人数確認(全員が写っている) |
3枚目があると、参加人数の裏付けになります。報告書に人数だけ書くより説得力があります。
講評は「次に直すこと」を1つだけ
反省を5つ書いても、翌年までに1つも直りません。1つに絞ると直ります。
- ×「避難に時間がかかった。放送が聞こえにくい。人数確認が遅い。誘導の声が小さい」
- ○「地下の放送が聞こえなかった。次回までに地下に拡声器を1台置く。担当は◯◯、期限は◯月」
「誰が・いつまでに」が入っていれば、翌年の訓練までに直ります。
保管
訓練の記録は、消防計画・点検報告書と同じ束にまとめます。立入検査ではまとめて見られます。詳しくは消防設備点検報告書の出し方にあります。
消防署に来てもらう
所轄の消防署に依頼すると、訓練の指導や立会いをしてもらえることがあります。
| 依頼するとき | 内容 |
|---|---|
| 初めて訓練をする | 進め方から教えてもらえる |
| 消火器の使い方を教わりたい | 水消火器を持ってきてもらえることがある |
| 通報訓練をしたい | 訓練用の通報装置を用意している消防本部がある |
| 建物が新しくなった | 新しい設備の使い方を教わる |
日程に余裕をもって相談します。繁忙期(春・秋)は予約が取りにくくなります。
来てもらうと何が変わるか
その場で指摘がもらえます。「この扉は避難のときに開きますか」「この放送は地下まで届きますか」。自分たちだけだと気づかないことが出ます。
よくある質問
消防訓練をやっていないとどうなりますか
消防計画に定めた回数を実施していないと、指導の対象になります。特定防火対象物で年2回未満なら法令上の義務を満たしていません。気づいた時点で実施して記録を残すのが先です。
通報訓練で実際に119番してよいですか
実際にかけると本当の出動につながるため、口頭での訓練か、消防署と事前に打ち合わせた形で行います。訓練用の通報装置を用意している消防本部もあります。所轄に確認してください。
消防署の人に来てもらえますか
立会いや指導を依頼できる場合があります。日程に余裕をもって所轄の消防署に相談してください。来てもらえると、その場で指摘がもらえます。
テナントビルです。誰が主催しますか
建物全体の訓練は、統括防火管理者または管理会社が主催するのが一般的です。各テナントは自社の訓練を別に行うことが求められることもあります。ビルの管理規約と消防計画を確認してください。
人が少なくて班が組めません
1人が複数の班を兼ねて構いません。兼ねる前提で消防計画に書いておくことが大事です。書いていないと、実態と計画が食い違います。
まとめ
消防訓練は、特定防火対象物では消火訓練と避難訓練を年2回以上行います。非特定でも、消防計画に書いた回数が自分の義務になります。特定防火対象物では、訓練の前に消防機関へ通知することとされています。
進め方は、30分で総合訓練を組むのが実務に合います。想定は「2階の厨房から出火、階段室に煙」のように場所まで決めると、使えない経路が出て実際に近くなります。年2回のうち1回を夜間・休日の人数でやると、計画の穴が見つかります。
やると必ず何か見つかります。施錠された避難口、通路の荷物、聞こえない放送。その日のうちに1つだけ直すと決めておくと、訓練のたびに建物が良くなります。実施結果報告書の「講評・反省」を空欄にしないことが、次の訓練を変えます。