建物の衛生管理実務2026.09.16 公開ES-04

排水槽の清掃|6か月の根拠と自治体の上乗せ

目次

排水槽の清掃は、ふだん目に入らないぶん後回しになりやすい作業です。臭いや虫が出てから気づくことが多く、そのころには槽の中に汚泥がかなり溜まっています。貯水槽の清掃は意識されていても、排水槽のほうは何年も開けていないという建物が実際にあります。

この記事では、排水槽の清掃を、排水槽とは何か6か月という頻度の根拠自治体の上乗せ清掃の手順と当日の段取り日常でできることの順に整理します。頻度や基準は自治体の条例・指導要綱で上乗せされていることがあります。自分の建物に何が適用されるかは、所在地の保健所に確認してください。

清掃の記録や点検表の様式そのものを探している場合は、点検板に施設向けの様式がそろっています。

結論:法令は6か月以内ごとに1回。地域はもっと短い

ビル管法(建築物衛生法)では、排水に関する設備の清掃を6か月以内ごとに1回、定期に行うこととされています。これが全国共通の下限です。

ただし、自治体が条例や指導要綱でより短い間隔を定めていることがあります。

頻度
ビル管法(全国共通)6か月以内ごとに1回
自治体の上乗せの例4か月ごとに1回(年3回以上) など

「法令では6か月だから半年に1回」で運用していると、地域の基準を外れることがあります。東京都のように、指導要綱で排水槽の構造と維持管理について独自の基準を示している自治体があります。所在地の保健所のサイトか窓口で、上乗せの有無を一度確かめておきます。

ビル管法の全体像はビル管法とはにまとめています。

法令は6か月。地域はもっと短いことがある法令(全国)6か月以内ごとに1回これが下限地域の上乗せ4か月ごと(年3回以上)条例や指導要綱で定められる
法令は6か月。地域はもっと短いことがある

排水槽とは何か

排水槽は、建物から出た排水を一時的に溜めて、ポンプで下水道へ送り出すための槽です。地下にある建物や、下水道の本管より低い位置に設備がある建物で必要になります。

種類は、集まる水によって分かれます。

種類集まる水
汚水槽トイレの排水
雑排水槽厨房・洗面・浴室などの排水
湧水槽地下に染み出す地下水
合併槽汚水と雑排水をまとめて受ける

臭いと虫でいちばん問題になるのは雑排水槽です。厨房からの油分と食品くずが流れ込むため、槽の底に汚泥、水面に油の膜(スカム)ができます。放っておくと、これが発酵して硫化水素などのガスが発生します。

貯水槽とは別のもの

名前が似ているので混ざりますが、貯水槽は飲み水を溜める槽、排水槽は使い終わった水を溜める槽です。清掃の頻度も、根拠も別になります。貯水槽のほうは貯水槽の清掃にまとめています。

貯水槽排水槽
中身飲み水使用後の排水
清掃の頻度1年以内ごとに1回6か月以内ごとに1回
主な根拠水道法、ビル管法ビル管法、下水道法など
放置したときの問題水質の悪化臭気、虫、ガス、ポンプの故障
貯水槽と排水槽は別のもの貯水槽排水槽中身飲み水使用後の排水清掃1年以内6か月以内放置すると水質の悪化臭気・虫・故障
貯水槽と排水槽は別のもの

清掃をしないと何が起きるか

排水槽の清掃を怠ると、建物の中に症状が出てきます。どれも「排水槽が原因だ」とすぐには結びつかないため、別の対策に時間を使ってしまうことがあります。

症状起きている場所
下水のような臭い地下、1階の店舗、トイレの周り
小さな虫(ちょうばえ)が出る厨房、洗面、排水溝の周り
排水が流れにくい建物全体
ポンプが止まる・故障する機械室。あふれると大ごとになる
警報が鳴る満水警報が作動する

いちばん重いのはポンプの故障です。汚泥や異物がポンプに絡むと、送り出せなくなって槽があふれます。地下にあふれると、復旧に何日もかかります。

臭いと虫は同じ原因のことが多い

「テナントから臭いの苦情が出た」「厨房に小さな虫が出る」。この2つが同時に起きているなら、排水槽か排水溝の汚泥を疑うのが近道です。消臭剤や殺虫剤で対処しても、発生源が残っていれば戻ります。

ちょうばえの発生と防除はねずみ等の防除にまとめています。

点検表テンプレート
様式をさがす

実際に使える様式が必要な方へ

清掃の記録や点検表を一から作るのは手間がかかります。既成の様式を使いたい方は点検板をご覧ください。

点検板で様式をさがす

清掃の手順と当日の段取り

排水槽の清掃は、槽の中に人が入る作業を伴います。酸素が欠乏していたり、硫化水素が発生していたりする危険があるため、専門の業者が手順を踏んで行います。

段階内容
1槽の中の水と汚泥を抜き取る(バキューム車)
2換気とガスの測定を行う
3槽内を洗浄し、壁や底の汚泥を落とす
4ポンプ、フロートスイッチ、配管を点検する
5消毒する
6水を張り、ポンプの運転を確認する
7記録を作成する

4の点検が、実は大きな価値のある部分です。槽を空にしないとポンプやスイッチの状態は見られません。清掃のついでに、故障しかけている部品が見つかることがよくあります。

建物の側で準備すること

清掃の日は、その槽へ排水を流せない時間が出ます。

  • 実施の日時をテナントと利用者へ知らせる
  • 水を流せない時間帯を具体的に伝える(トイレ、厨房)
  • バキューム車を停める場所を確保する
  • マンホールの上の物をどける
  • 臭気が出るので、近隣にも事前に知らせる

マンホールの上に物が置かれているのが、当日いちばん起きるつまずきです。駐車場や機械室にある蓋の上に、荷物や車が載っていることがあります。清掃の前日に、蓋の上を空けておくと作業が止まりません。

抜き取った汚泥の扱い

抜き取った汚泥は、産業廃棄物または一般廃棄物として適正に処理することになります。処理の記録(マニフェストなど)が業者から出てくるので、清掃の記録と一緒に保管しておきます。

4で部品の劣化が見つかる1抜き取りバキューム車で水と汚泥を2換気とガス測定人が入る前に必ず3洗浄壁と底の汚泥を落とす4**ポンプの点検**空にしたときしか見られない
清掃の7段階。4で部品の劣化が見つかる

日常でできること

清掃は年に2回か3回ですが、汚泥が溜まる速さは日常の使い方で変わります。建物の側でできることがあります。

やることなぜ効くか
厨房のグリストラップを定期的に清掃する油分が排水槽へ流れる量が減る
排水溝のごみ受けを毎日空にする固形物が流れない
厨房で油を流さないよう周知する固まって配管とポンプに付く
満水警報の表示を毎日見るポンプの不調に早く気づく
臭いの変化に気を配る汚泥の堆積のサイン

グリストラップの清掃が、いちばん効きます。厨房の油をここで止められれば、排水槽に流れ込む量が大きく減ります。逆に、グリストラップを放置している建物では、清掃の間隔を短くしても間に合わないことがあります。

満水警報を止めたままにしない

満水警報が鳴ると、うるさいので音を止めることがあります。そのまま解除せずに放置すると、次に本当にあふれるときも気づけません。警報が鳴ったら、止める操作と原因の確認をセットにする運用にしておきます。

巡回の組み方は設備点検のやり方にまとめています。

日常でできる5つ厨房グリストラップの清掃油を流さないここがいちばん効排水溝ごみ受けを毎日空にする設備満水警報の表示を見る臭いの変化に気を配る
日常でできる5つ

グリストラップの管理

排水槽の話をすると、必ずグリストラップが出てきます。厨房の排水から油と食品くずを分けて止めるための装置で、床に埋まっている蓋付きの箱がそれにあたります。

一般には、次のような頻度で手入れをしている店舗が多くあります。

部分頻度の目安内容
バスケット(かご)毎日食品くずを取り出す
水面の油(スカム)週1回程度すくい取る
槽内の底の汚泥月1回程度すくい取る、または業者へ
全体の清掃定期業者による汲み取りと洗浄

バスケットの毎日の清掃が、いちばん効きます。ここに食品くずが溜まったままだと、油と混ざって槽の中で分解が進み、臭いの元になります。

テナントとの分担を決めておく

グリストラップは専有部の中にあることが多いため、日常の手入れはテナント側の仕事になるのが一般的です。ところが契約に書かれていない建物があります。

  • 日常の手入れ(バスケット、油のすくい取り)は誰がやるか
  • 定期の汲み取りは建物側でまとめるか、店舗ごとか
  • 費用の負担はどちらか
  • 退去のときに清掃してから返すか

4つ目が抜けていると、退去後に開けて驚くことになります。新しいテナントが入る前に清掃が必要になり、その費用の出どころで揉めます。入居のときに1行入れておくと後が楽です。

伝え方は、否定から入らないほうが協力を得やすくなります。

> 一般には、閉店後にバスケットの中身を取り出して、週に1回は水面の油をすくっている店舗が多くあります。

グリストラップは3つの層に分かれる油(スカム)週1回すくい取る下水道へ流れる汚泥月1回すくい取る
グリストラップは3つの層で分かれている

記録の残し方

排水槽の清掃は、ビル管法の帳簿書類として記録を残すこととされています。保健所の立入検査でも確認されます。

残すもの内容
清掃の記録実施日、対象の槽、作業の内容、業者名
汚泥の処理の記録処理の量と、処理先
ポンプ等の点検結果部品の状態、交換したもの
写真清掃の前後。状態の変化が分かる
次回の予定日周期から逆算した日付

写真を残しておくと、次の清掃のときに比較できます。汚泥の溜まり方が前回より早いなら、使い方が変わったか、グリストラップの管理が落ちている可能性があります。

「次回の予定日」を記録に書いておくと、周期が守られます。6か月以内ごとという条件は、実施日から数えるので、遅れると次も遅れていきます。期限の管理は建物の法定点検一覧にまとめています。

業者を選ぶときに見るところ

排水槽の清掃は、同じ「年2回」でも中身に差が出ます。槽を空にしたあと、どこまで見てもらえるかが分かれ目です。

見ることなぜ
ポンプ・スイッチの点検を含むか槽を空にしたときしか見られない
洗浄の範囲底だけか、壁面と配管の入り口まで見るか
消毒を含むか臭気と衛生に効く
汚泥の処理の記録適正に処理された証拠が出るか
写真の提出清掃の前後が残るか
緊急時の対応詰まりやあふれのときに来てもらえるか

1つ目が、費用対効果でいちばん大きいところです。ポンプやフロートスイッチは、槽を空にしないと状態が見られません。清掃のついでに点検してもらえば、故障の前に交換できます。あふれてからの復旧に比べれば、はるかに小さな出費で済みます。

見積りを揃える

金額だけ並べても比べられません。次を同じ条件にしてから比べます。

  • 槽の数と、それぞれのおおよその容量
  • 年間の回数(自治体の上乗せを反映しているか)
  • ポンプ等の点検を含むか
  • 汚泥の処理費用が含まれるか、量による従量か
  • 作業できる時間帯(夜間・休日の割増)

4つ目が、金額の差になりやすいところです。汚泥の量は槽の使われ方で変わるので、従量の見積りだと前回より増えることがあります。前回の実績量を伝えて見積りを取ると、比べやすい金額が出てきます。

よくある質問

排水槽の清掃は義務ですか

ビル管法の特定建築物では、排水に関する設備の清掃を6か月以内ごとに1回行うこととされています。特定建築物でない建物でも、下水道法や自治体の条例で求められることがあります。所在地の保健所で確認します。

6か月に1回でよいのですか

法令上の下限が6か月以内ごとに1回です。自治体によっては4か月ごと(年3回以上)といった上乗せがあります。また、厨房の排水が多い建物では、6か月を待たずに汚泥が溜まることがあります。実際の汚れ方に合わせて頻度を決めるのが実務です。

満水警報が鳴りました。何をすればよいですか

音を止める操作と、原因の確認をセットにします。ポンプが止まっている、フロートスイッチが汚泥で動かない、配管が詰まっているといった原因が考えられます。音だけ止めて放置すると、次に本当にあふれるときも気づけません。原因が分からないときは、槽の清掃を委託している業者へ連絡します。

貯水槽の清掃とは違いますか

別のものです。貯水槽は飲み水、排水槽は使用後の排水を溜める槽で、清掃の頻度も根拠も違います。貯水槽は1年以内ごとに1回、排水槽は6か月以内ごとに1回とされています。

槽の中に自分で入って掃除してもよいですか

行いません。排水槽の中は酸素が欠乏していたり、硫化水素が発生していたりすることがあり、入った人が倒れる事故が実際に起きています。換気とガスの測定を行ったうえで、決められた手順で作業する必要があるため、専門の業者に依頼します。マンホールを開けるだけでも、しばらく近づかないようにします。

臭いと虫が出ていますが、清掃すれば直りますか

排水槽か排水溝の汚泥が原因であれば、清掃で大きく改善します。ただし、グリストラップの管理や日常の清掃が追いついていないと、また戻ります。清掃のあとに、日常の手順を一緒に見直すと効果が続きます。

グリストラップは誰が掃除しますか

専有部の中にあることが多いため、日常の手入れはテナント側が担うのが一般的です。ただし契約に書かれていない建物があります。日常の手入れ、定期の汲み取り、費用の負担、退去のときの清掃の4つを、入居のときに決めておくと後が楽です。

清掃の日はトイレや厨房が使えなくなりますか

その槽へ排水を流せない時間が出ます。汚水槽ならトイレ、雑排水槽なら厨房や洗面が対象になります。時間帯を具体的に伝えて周知しておくと、当日の混乱が避けられます。

まとめ

排水槽の清掃は、ビル管法で6か月以内ごとに1回とされています。ただしこれは下限で、自治体が条例や指導要綱でより短い間隔を定めていることがあります。所在地の保健所で上乗せの有無を確かめておきます。

臭い、虫、排水の流れにくさ、ポンプの故障。これらは排水槽が原因のことが多く、別の対策に時間を使ってしまいがちです。特にポンプが止まって槽があふれると、復旧に何日もかかります。

清掃の当日は、その槽へ排水を流せない時間が出ます。テナントへの周知、バキューム車の停車場所、マンホールの上を空けておくこと。この3つを前日までにそろえておくと、作業が止まりません。

業者を選ぶときは、ポンプとフロートスイッチの点検が含まれるかを見ます。槽を空にしたときしか見られない部分なので、ここを含めておくと故障の前に交換できます。

そして、汚泥が溜まる速さは日常の使い方で変わります。グリストラップの清掃がいちばん効きます。ここで油を止められれば、排水槽へ流れ込む量が大きく減ります。清掃の前後で写真を残しておくと、次の回に比べられます。

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