建築物環境衛生管理技術者|選任の条件と兼任の考え方
目次
建築物環境衛生管理技術者は、現場では「ビル管理技術者」「ビル管」と呼ばれることが多い資格です。特定建築物には必ず1人選任することとされていますが、何をする人なのかが分かりにくく、「資格を持った人に名前を貸してもらっている」ような運用になっている建物もあります。
この記事では、建築物環境衛生管理技術者を、どういう役割か、選任が必要になる建物、兼任できるのか、実務で何をするのか、選任と届出の手順の順に整理します。選任の扱いは自治体の運用で異なる部分があります。自分の建物の扱いは、所在地の保健所に確認してください。
結論:建物の衛生を「監督する」役割
建築物環境衛生管理技術者は、建築物環境衛生管理基準に従って維持管理が行われるよう監督する役割とされています。自分で清掃したり測定したりする人ではなく、建物全体の衛生管理が基準どおり回っているかを見る人です。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 監督 | 空気・水・清掃・ねずみ等の管理が基準どおりか |
| 計画 | 維持管理の計画を立て、実施状況を確認する |
| 記録 | 帳簿書類が整っているかを確かめる |
| 意見を述べる | 必要なときに所有者へ意見を述べることができる |
4つ目が、この資格の芯にあたる部分です。設備の改善や予算が必要なときに、所有者に対して意見を述べることができるとされていて、所有者はその意見を尊重することとされています。名前だけ置かれている状態では、この機能が働きません。
管理基準の中身はビル管法とはにまとめています。
選任が必要になる建物
選任が必要なのは、ビル管法の特定建築物です。条件は2つあり、両方に当てはまったときに該当します。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 用途 | 興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、旅館など特定の用途 |
| 規模 | その特定用途の部分の延べ面積が3,000平方メートル以上(学校教育法第1条の学校は8,000平方メートル以上) |
特定建築物1つにつき1人を選任するとされています。ビルが複数棟あれば、その棟ごとに必要かどうかを確かめます。
資格の取り方は2つ
建築物環境衛生管理技術者になる方法は、おおむね2つとされています。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 国家試験 | 建築物環境衛生管理技術者試験に合格する。受験に実務経験が要る |
| 講習会 | 一定の資格と実務経験を満たしたうえで、講習を修了する |
どちらも実務経験が前提になっているのが特徴です。新卒でいきなり取れる資格ではないため、社内で育てるには数年かかります。この点が、後で述べる兼任や外部委託の話につながります。
兼任できるのか
ここがいちばん質問の多いところです。結論から言うと、原則は1つの特定建築物につき専任ですが、一定の条件のもとで兼任が認められる場合があるとされています。
| 状況 | 一般的な扱い |
|---|---|
| 同じ建物の中で他の業務も担当する | 支障が無ければ問題にならないことが多い |
| 複数の特定建築物を兼任する | 条件付きで認められることがある |
| 遠隔地の建物を兼任する | 実際に監督できるかで判断される |
判断の軸は「実際に監督できるか」です。距離、建物の規模、移動の時間、他の業務との兼ね合いを見て、監督が行き届くかどうかで判断されます。
自治体で運用が違う
兼任の可否は、所在地の保健所の運用による部分があります。同じような条件でも、地域によって扱いが異なることがあります。
兼任を考えているなら、選任する前に保健所へ相談するのが確実です。届出を出してから指摘を受けると、体制を組み直すことになります。
名前だけの選任にしない
実務で問題になるのは、資格者が選任されているが、建物に来ていないという状態です。帳簿を見ていない、測定の結果を確認していない、意見を述べたことがない。この状態だと、立入検査で実態を尋ねられたときに説明ができません。
月に1回は帳簿を確認して、確認した記録を残す。これだけでも実態のある選任になります。
実務で何をするのか
「監督する」と言われても、具体的に何をすればよいのかが見えにくいところです。一般には、次のような業務を担っている建物が多くあります。
| 頻度 | やること |
|---|---|
| 週 | 残留塩素の測定結果を確認する |
| 月 | 帳簿を確認し、抜けが無いかを見る |
| 2か月 | 空気環境測定の結果を確認し、基準内かを見る |
| 6か月 | 排水設備の清掃、ねずみ等の調査の結果を確認する |
| 年 | 維持管理の計画を立てる。貯水槽の清掃と水質検査を確認する |
| 随時 | 測定値が基準を外れたときに原因を調べ、意見を述べる |
「結果を確認する」が業務の中心になります。委託先が実作業をしている建物では、報告書を読んで、基準に入っているかを判断するのが管理技術者の仕事です。
基準を外れたときが本番
測定の結果が基準を外れたとき、そこから先が管理技術者の役割になります。
| 外れた項目 | 見るところ |
|---|---|
| 二酸化炭素が高い | 外気の取り入れ量、在室人数の増加 |
| 温度・湿度が外れる | 空調の運転、加湿器の状態 |
| 浮遊粉じんが多い | フィルタの目詰まり、清掃の頻度 |
| 残留塩素が出ない | 受水槽の滞留、配管の状態 |
記録に「基準外」と書いて終わりにしないのが大事なところです。原因を調べ、必要なら設備の改善を所有者に提案します。この提案が、意見を述べるという役割そのものです。
空気環境測定の詳しい見かたは空気環境測定にまとめています。
他の有資格者との役割の違い
建物には、法令ごとに「選任する人」が何人もいます。似た名前が並ぶので、誰が何を見ているのか分からなくなるのが、施設の管理でよくある状態です。
| 役割 | 根拠 | 何を見るか | 届出先 |
|---|---|---|---|
| 建築物環境衛生管理技術者 | ビル管法 | 空気・水・清掃・ねずみ等 | 保健所 |
| 防火管理者 | 消防法 | 火災の予防、消防計画、訓練 | 消防署 |
| 電気主任技術者 | 電気事業法 | 電気工作物の保安 | 産業保安監督部 |
| 建築設備検査員など | 建築基準法 | 建築設備の定期検査 | 特定行政庁 |
それぞれ別の法律で、届出先も別です。1人が複数を兼ねている建物もありますが、選任の届出はそれぞれ出すことになります。
防火管理者については防火管理者とは、電気主任技術者については自家用電気工作物とはにまとめています。
1枚の名簿にまとめておく
誰が何の資格で選任されているかを、1枚の名簿にしておくと、担当が替わったときの引き継ぎが1回で済みます。載せるのは4つです。
- 役割の名前と、根拠になる法令
- 選任されている人の氏名と所属(社内か委託先か)
- 届出先と、届出を出した日
- 交代したときに連絡する相手
この名簿が無いと、誰かが辞めたときに「何の届出が必要か」から調べ直すことになります。異動の多い組織ほど効きます。
選任と届出の手順
届出そのものは難しくありませんが、手順を飛ばすと後から直すことになります。順番に見ていきます。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1 | 自分の建物が特定建築物に該当するか確認する |
| 2 | 資格者を決める(自社/委託/兼任の相談) |
| 3 | 選任する |
| 4 | 特定建築物の届出に記載して保健所へ出す |
| 5 | 変わったときは変更の届出を出す |
5が抜けやすいところです。管理技術者が異動や退職で替わったのに、届出だけ昔のままになっている建物があります。立入検査で最初に照合されるのがここなので、替わったらすぐ出します。
外部に委託するという選び方
社内に資格者がいない場合、ビル管理会社に管理技術者の業務を含めて委託する形をとる建物が多くあります。清掃や設備の管理とまとめて1つの契約にすることが一般的です。
委託するときは、次を契約で確かめておきます。
| 見ること | なぜ |
|---|---|
| 管理技術者として選任される人の氏名 | 届出に書く必要がある |
| その人が建物に来る頻度 | 名前だけの選任にしないため |
| 帳簿の確認をどこまでやるか | 建物側でやる範囲との切り分け |
| 意見を述べる場面の扱い | 改善の提案が上がってくるか |
| 交代したときの連絡 | 変更の届出が必要になる |
「交代したときの連絡」を決めていないと、委託先の中で担当が替わっても届出が出ません。契約に1行入れておきます。
意見を述べる場面をつくる
「意見を述べることができる」と法令に書かれていても、述べる機会が仕組みとして無ければ、実際には出てきません。建物の側で場をつくっておく必要があります。
一般には、次のような形にしている建物があります。
| 形 | 内容 |
|---|---|
| 月次の報告会 | 帳簿の確認結果を管理側に報告する場を決める |
| 書面での提出 | 改善が必要な項目を、様式に書いて残す |
| 年間計画の会議 | 翌年度の維持管理計画を立てるときに同席する |
| 予算の相談 | 修繕の予算を組む段階で意見を聞く |
4つ目が、いちばん効きます。設備の改善は予算が付かないと動きません。予算を組む段階で衛生管理の側から意見が入る形にしておくと、「基準を外れているが直せない」という状態が続きにくくなります。
意見は記録に残す
口頭で伝えただけでは、後から確かめられません。述べた意見と、それに対して所有者がどう対応したかを1行ずつ残しておきます。
- いつ、何について意見を述べたか
- 提案した内容
- 所有者側の判断(実施する/時期を変える/見送る)
- 実施したなら、その日付
「見送る」と書くことをためらわないのが大事なところです。予算や工期の都合で今はできない、という判断も記録です。次の年に同じ議題を出すときの材料になります。
よくある質問
建築物環境衛生管理技術者は必ず建物に常駐しますか
常駐が求められているわけではありませんが、実際に監督できる状態であることが前提です。名前だけで建物に来ていない状態だと、立入検査で実態を尋ねられたときに説明ができません。月1回は帳簿を確認し、確認した記録を残すのが現実的な形です。
「ビル管」と呼ばれているのは同じ資格ですか
同じものです。建築物環境衛生管理技術者が正式な名称で、現場では「ビル管理技術者」「ビル管」と略されます。資格試験も「ビル管試験」と呼ばれることがあります。届出や契約書には正式な名称で書くようにしておくと、他の資格と取り違えずに済みます。
複数のビルを1人で兼任できますか
条件付きで認められることがあります。判断の軸は「実際に監督できるか」で、距離・規模・他の業務との兼ね合いを見られます。自治体によって運用が違うため、選任する前に所在地の保健所へ相談するのが確実です。
資格はどうやって取りますか
国家試験に合格する方法と、一定の資格と実務経験を満たして講習を修了する方法があります。どちらも実務経験が前提なので、社内で育てるには数年かかります。急に必要になった場合は、外部への委託を検討する建物が多くあります。
社内で資格を取らせたいのですが
国家試験と講習の2つの道があり、どちらも実務経験が前提です。すぐには取れないので、外部への委託で体制を作りながら、並行して社内の人を育てるという進め方をとる建物が多くあります。受験や受講に必要な実務経験の年数と、どの業務が経験として認められるかを先に確かめておくと、配置の計画が立てやすくなります。
管理技術者が替わったら何をしますか
変更の届出を保健所へ出します。立入検査で最初に照合される部分なので、替わったらすぐに出します。委託先の中で担当が替わったときも同じです。契約に「交代したら連絡する」を1行入れておきます。
防火管理者や電気主任技術者と同じ人でもよいですか
法令が別なので、同じ人が複数の役割を兼ねること自体は珍しくありません。ただし選任の届出はそれぞれ別に出すことになりますし、届出先も保健所・消防署・産業保安監督部と分かれます。誰が何の資格で選任されているかを1枚の名簿にまとめておくと、交代のときに漏れません。
意見を述べる場面が実際にありません
法令に書かれていても、場が無ければ出てきません。月次の報告会、年間計画の会議、修繕予算の相談のいずれかに同席する形をつくっておくと機能します。特に予算を組む段階で意見が入ると、「基準を外れているが直せない」という状態が続きにくくなります。述べた意見と所有者の判断は、1行ずつ記録に残します。
空気環境測定の結果が基準を外れていました
記録に「基準外」と書いて終わりにせず、原因を調べて所有者へ意見を述べるのが管理技術者の役割です。二酸化炭素が高いなら外気の取り入れ、粉じんが多いならフィルタ、というように設備側の話になります。
まとめ
建築物環境衛生管理技術者は、建物の衛生管理が基準どおり回っているかを監督する人です。自分で清掃や測定をする人ではありません。特定建築物には1棟につき1人を選任することとされています。
この資格の芯にあるのは、必要なときに所有者へ意見を述べることができるという部分です。測定値が基準を外れたとき、設備の改善が要るとき、予算が必要なとき。名前だけの選任になっていると、この機能が働きません。
兼任は、条件付きで認められることがあります。判断の軸は「実際に監督できるか」で、自治体によって運用が違うため、選任する前に保健所へ相談するのが確実です。
意見を述べる場は、仕組みとしてつくっておきます。月次の報告会、年間計画の会議、修繕予算の相談。特に予算を組む段階で衛生管理の側から意見が入ると、基準を外れたまま動かない状態が続きにくくなります。
そして、変更の届出が抜けやすいところです。管理技術者が替わったら、すぐに届け出ます。委託している場合は、委託先の中で担当が替わったときにも連絡が来る形にしておきます。