建物の定期報告実務2026.09.16 公開TH-31

外壁の全面打診調査|10年ごとの対象と足場の要否

目次

外壁の全面打診調査は、毎年の定期調査とは別に、10年に一度だけ回ってくるものです。周期が長いぶん、前回がいつだったか分からなくなりやすく、調査の年になって初めて「足場が要る」と言われて予算が足りないという形になりがちです。

この記事では、外壁の全面打診調査を、毎年の調査との違い対象になる建物と外壁10年の数え方調査の方法と足場費用が動くところの順に整理します。対象や報告の時期は建物の用途・規模と特定行政庁(都道府県や市の建築部門)の定めで変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所在地の特定行政庁に確認してください。

定期報告の管理表や記録の様式そのものを探している場合は、点検板に施設向けの様式がそろっています。

結論:毎年の調査と、10年ごとの全面打診は別

特定建築物定期調査では、外壁も見られます。ただし毎年見るところと、10年に一度だけやることが分かれています。

毎年の調査全面打診調査
何をするか目視、手の届く範囲の打診落下のおそれのある部分を全面的に打診
周期定期調査のたびおおむね10年に一度
足場不要足場・ゴンドラ・ロープなどが要ることが多い
費用調査費用に含まれる別に大きな費用がかかる

「毎年見てもらっているから大丈夫」ではありません。毎年の調査は地上や手の届く範囲が中心で、上層階のタイルが浮いているかどうかまでは分かりません。

特定建築物定期調査の全体像は特定建築物定期調査とはにまとめています。

なぜ打診するのか

タイルや石貼り、モルタルの外壁は、内部で浮いていても表面からは見えません。打診棒で叩くと、密着している部分と浮いている部分で音が変わります。この音の違いで、落下のおそれのある箇所を見つけます。

落ちてから気づくと、通行している人に危害が及びます。この調査があるのは、過去に実際の落下事故が起きているためです。

毎年の調査と10年ごとの全面打診毎年の調査目視手の届く範囲の打診上層階の浮きは分からない全面打診落下のおそれのある部分全面を叩くおおむね10年に一度。足場が要る
毎年の調査と10年ごとの全面打診

対象になる建物と外壁

対象になるのは、特定行政庁が指定した特定建築物のうち、タイル、石貼り、モルタルなどで仕上げられた外壁を持つものとされています。

外壁の仕上げ一般的な扱い
タイル貼り対象
石貼り(乾式工法を除く)対象
モルタル塗り対象
金属パネル・カーテンウォール打診の対象になりにくい
コンクリート打放し仕上げによる

「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」が対象の範囲とされています。つまり、下に人が通る面がすべて対象になります。道路に面した面だけでなく、敷地内の通路、駐車場、エントランス前も含まれます。

隣地側や裏面はどうか

人が通らない面、たとえば隣の建物とぴったり接している面などは、危害を加えるおそれがないとして対象から外れることがあります。ただし判断は特定行政庁の運用によります。

自分で「ここは人が通らないから」と決めないのが安全です。調査の資格者と一緒に、どの面が対象になるかを先に確認します。

下に人が通る面が対象になる一般的な扱い道路に面した面対象敷地内の通路・駐車場対象エントランス前対象隣とぴったり接した面外れることがある
下に人が通る面が対象になる

10年の数え方

ここがいちばん間違えやすいところです。10年は、建物ができてからの年数だけで数えるものではありません。

起点内容
竣工建物ができた日
外壁の改修改修した部分は、そこから数え直す
前回の全面打診そこから10年

外壁を改修した部分は、改修の時点から10年とされています。そのため、建物の面ごとに次の調査年が違うということが起こります。大規模修繕で南面だけ張り替えた建物では、南面と他の面で時期がずれます。

前回がいつか分からない建物

長く管理していると、前回の全面打診がいつだったかの記録が残っていないことがあります。この場合、次の順で探します。

  • 定期調査報告書の控え(外壁の欄に記載があることが多い)
  • 大規模修繕の工事記録
  • 特定行政庁に提出した報告書の副本
  • 管理会社や調査を担当した資格者の記録

どうしても分からなければ、調査の資格者に相談して、やる前提で計画を立てるのが現実的です。10年という周期は長く、放っておくと次の担当者も同じところで困ります。

分かった時点で、次回の予定年を一覧に書き込みます。期限の管理は建物の法定点検一覧にまとめています。

点検表テンプレート
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実際に使える様式が必要な方へ

定期報告の管理表を一から作るのは手間がかかります。既成の様式を使いたい方は点検板をご覧ください。

この様式をひらく
改修した面は、そこから数え直す竣工ここが起点10年目全面打診南面を改修南面だけ数え直し20年目他の面は2回目南面は改修から10年目面ごとに次の調査年が違う。図に色を塗って残す
改修した面は、そこから数え直す

調査の方法と足場

全面打診は、外壁の全面に人の手か機械が届く必要があります。方法によって費用と工期が大きく変わります。

方法特徴
足場を組む確実。費用と工期がいちばん大きい。修繕と同時なら効率的
ゴンドラ屋上から吊る。建物の構造によっては使えない
ロープアクセス足場が要らない。作業できる面に制約がある
赤外線調査温度差で浮きを見つける。非接触。足場が要らない
ドローンによる赤外線高所も撮れる。飛行の許可と天候の制約がある

赤外線調査が認められる範囲は、告示や特定行政庁の運用で決まっています。「赤外線でよい」と業者から言われても、その建物・その面で認められるかを事前に確認するところから始めます。

大規模修繕と合わせる

足場を組むなら、大規模修繕と同じ年に合わせるのが実務のいちばん大きな工夫です。足場は調査でも修繕でも必要になるので、別々にやると2回ぶんかかります。

一般には、次のように組んでいる建物があります。

  • 全面打診の年が近づいたら、大規模修繕の計画と突き合わせる
  • 修繕が1〜2年以内にあるなら、まとめられるか特定行政庁に相談する
  • まとめられるなら、調査で見つかった浮きをその足場で補修する
  • 修繕の予定が無いなら、赤外線などの足場不要の方法を検討する

「調査で浮きが見つかったのに、足場をばらしてから補修する」のがいちばんもったいない形です。

足場は修繕と合わせると1回で済む別々にやる調査の足場修繕の足場足場が2回ぶんまとめる足場は1回調査で見つけた浮きをその場で補修
足場は修繕と合わせると1回で済む

費用が動くところ

見積りの金額は、外壁の面積だけでは決まりません。同じ面積でも、条件で何倍も変わります。

動くところなぜ
足場の要否いちばん大きい。総額の多くを占めることがある
建物の高さ足場の段数、ゴンドラの可否
敷地の余裕足場を立てる場所があるか。道路占用の許可が要るか
対象になる面の数人が通る面だけか、全周か
調査の方法打診か赤外線か。併用か
工事の時間帯営業中にできるか、夜間・休日か

敷地の余裕が見落とされます。建物が敷地いっぱいに建っていると、足場を歩道側に出すことになり、道路占用の許可と安全対策が必要になります。ここで期間も費用も増えます。

見積りを揃える

金額だけを並べても比べられません。依頼のときに次を先に伝えます。

  • 建物の用途・階数・外壁の仕上げ
  • 前回の全面打診の年(分かる範囲で)
  • 対象にすべき面(人が通る面の位置)
  • 大規模修繕の予定の有無
  • 営業しながらの実施が必要か

4つ目を伝えていないと、単独で足場を組む前提の見積りだけが出てきます。修繕と合わせられる可能性があるなら、必ず言っておきます。

調査の当日に建物側でやること

足場やゴンドラを使う調査では、建物を使いながら行うことになります。段取りは建物の側で組みます。

段階やること
1実施の期間をテナント・入居者・近隣へ知らせる
2足場を立てる位置と、通れなくなる動線を伝える
3窓を開けられない期間を明示する
4バルコニーや専用庭の物を片づけてもらう
5駐車場・駐輪場の一時的な移動を案内する
6防犯の注意(足場からの侵入)を伝える

6を忘れると苦情になります。足場が組まれている間は、上階の窓から入られる懸念が出ます。足場の出入口を施錠する、防犯シートを張る、夜間の警備を入れるといった対策を、見積りの段階で確認しておきます。

近隣への説明

足場が道路側に出る場合、歩道の一部を使うことになります。道路占用の許可と、通行人の安全対策が必要です。

一般には、次を近隣に知らせている建物が多くあります。

  • 工期(いつからいつまで)
  • 作業の時間帯
  • 音と振動が出る期間
  • 歩道が狭くなる位置
  • 連絡先

打診は音が出る作業です。タイルを叩く音が続くため、隣に住宅や医院があるときは、時間帯の配慮を先に決めておきます。

落下の兆候は日常でも見える

10年に一度の調査を待たずに、日常の巡回で気づけることがあります。どれも地上から見えるものです。

見るところ何のサイン
外壁のひび割れ内部に水が入る入口
タイルの目地の白い筋水が抜けた跡。浮きが進んでいることがある
外壁の変色・膨らみ内部で浮いている
建物の足元に落ちた欠片すでに落ちている。最優先
樋や庇からの漏れ水が壁を伝っている

いちばん重いのは4つ目です。足元にタイルの欠片が落ちていたら、その真上の壁が剥がれています。その場で下を立入禁止にして、すぐ調査の資格者に連絡します。次の定期調査まで待つ話ではありません。

雨のあとに1周する

外壁の傷みは水から始まります。大雨や台風のあとに建物の周りを1周するだけでも、落ちた欠片やひび割れの広がりに気づけます。巡回の項目に季節の1行を足しておきます。

巡回の組み方は設備点検のやり方にまとめています。

結果が出たあと

調査で浮きや剥落のおそれが見つかったら、補修することになります。報告書には、その状況と対応の予定を書いて出します。

状態対応
浮きが見つかった補修する(ピンニング、張り替えなど)
落下のおそれが大きい早急に対応。落下防止の措置も
広い範囲で劣化大規模修繕の計画に入れる
問題なし次回の年を一覧に記入する

放置したまま次の報告年を迎えると、同じ指摘が並びます。費用が大きいので一度には直せないことが多く、優先順位と年度の計画を添えて報告するのが実務です。

補修の記録を残す

補修した面は、そこから10年を数え直すことになります。だからどの面をいつ補修したかの記録が、次の調査の起点になります。

  • 補修した面と範囲(図に色を塗る)
  • 工事の年月
  • 工法(ピンニング、張り替え、塗装)
  • 施工した業者

図に色を塗って残しておくのがいちばん分かりやすい形です。文章だけだと、10年後に読んだ人が範囲を特定できません。

結果は面ごとに記録する残すもの書き方補修した面と範囲**図に色を塗る**工事の年月次の10年の起点工法ピンニング・張り替え施工した業者照会先
結果は面ごとに記録する

よくある質問

外壁の全面打診調査は義務ですか

特定行政庁が指定した建築物で、タイルや石貼り、モルタルなどの外壁を持つものについては、おおむね10年に一度、落下のおそれのある部分の全面的な打診等を行うこととされています。報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合の罰則も定められています。

毎年の定期調査とは違うのですか

違います。毎年の調査は目視と手の届く範囲の打診が中心で、上層階のタイルの浮きまでは分かりません。全面打診は10年に一度で、足場などを使って全面に手が届く状態にして行います。

赤外線調査でもよいのですか

認められる範囲が告示や特定行政庁の運用で決まっています。業者から「赤外線でよい」と言われても、その建物・その面で認められるかを事前に確認します。天候や外壁の条件によって、打診との併用を求められることがあります。

前回がいつだったか分かりません

定期調査報告書の控え、大規模修繕の工事記録、特定行政庁へ出した報告書の副本を探します。どうしても分からなければ、やる前提で計画を立てるのが現実的です。分かった時点で、次回の予定年を一覧に書き込みます。

費用を抑える方法はありますか

大規模修繕と同じ年に合わせて、足場を1回で済ませるのがいちばん大きい工夫です。足場は調査でも修繕でも必要になるので、別々にやると2回ぶんかかります。修繕の予定が無いなら、足場の要らない方法が使えるかを確認します。

足場を組む間、防犯は大丈夫ですか

上階の窓から入られる懸念が出ます。足場の出入口を施錠する、防犯シートを張る、夜間の警備を入れるといった対策を、見積りの段階で確認しておきます。入居者には、足場のある期間は窓の施錠を徹底してもらうよう案内します。ここを伝えていないと苦情になります。

打診は音が出ますか

タイルを叩く音が続きます。隣に住宅や医院がある場合は、作業の時間帯を先に決めて近隣に知らせておきます。足場が歩道側に出るときは道路占用の許可も要るので、工期・時間帯・歩道が狭くなる位置・連絡先をまとめて案内します。

隣の建物と接している面も対象ですか

人が通らず、落下により危害を加えるおそれがない面は、対象から外れることがあります。ただし判断は特定行政庁の運用によります。自分で決めず、調査の資格者と一緒にどの面が対象かを先に確認します。

まとめ

外壁の全面打診調査は、毎年の定期調査とは別に、おおむね10年に一度行うものです。毎年の調査は目視と手の届く範囲が中心なので、上層階のタイルの浮きは全面打診でしか分かりません。

対象は、タイル・石貼り・モルタルなどの外壁のうち、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分です。道路側だけでなく、敷地内の通路や駐車場、エントランス前も含まれます。

10年の数え方に注意が要ります。外壁を改修した部分は、そこから数え直しになるため、建物の面ごとに次の調査年が違うことがあります。だからこそ、どの面をいつ補修したかを図に色を塗って残しておくことが、10年後に効いてきます。

調査の当日は、建物を使いながらの作業になります。通れなくなる動線、窓を開けられない期間、バルコニーの片づけ、そして足場からの侵入への備え。この4つを事前に案内しておくと、期間中の問い合わせが減ります。

10年を待たずに気づけることもあります。足元に落ちたタイルの欠片は、その真上の壁が剥がれているという事実です。見つけたらその場で下を立入禁止にして、資格者に連絡します。

そして、費用のほとんどを決めるのは足場の要否です。大規模修繕と同じ年に合わせて足場を1回で済ませるのが、いちばん大きい工夫になります。調査の年が近づいたら、修繕の計画と突き合わせるところから始めます。

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