防火設備定期検査とは?対象の防火扉と年1回の報告
目次
防火設備定期検査は、2016年(平成28年)に始まった比較的新しい制度です。それまでは特定建築物定期調査の一部として扱われていたものが、独立した検査として切り出されました。そのため、古くから建物を管理している人ほど「いつのまにか1つ増えた」と感じる検査になっています。
この記事では、防火設備定期検査を、何を検査するのか、対象になる建物、消防の点検との違い、検査できる人、報告までの流れの順に整理します。対象や報告の時期は建物の用途・規模と特定行政庁(都道府県や市の建築部門)の定めで変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所在地の特定行政庁に確認してください。
結論:防火設備定期検査は「火災のときに閉まるか」を見る
防火設備定期検査は、建築基準法第12条第3項に基づく検査です。見るのは火災のときに煙や熱を感知して閉まる設備が、実際に閉まるかです。
対象になる防火設備は、おおむね次のものとされています。
| 設備 | どこにあるか |
|---|---|
| 防火扉(随時閉鎖式) | 廊下、階段室の入口、区画の境 |
| 防火シャッター | 吹き抜け、エスカレーターの周り、大きな開口部 |
| 耐火クロススクリーン | 吹き抜け、アトリウム |
| ドレンチャー | 大きな開口部(水の膜で火を遮る) |
普段は開いたまま壁に納まっているので、閉まるところを見たことがないという建物がほとんどです。検査では感知器と連動させて実際に閉じ、途中で止まらないか、床まで下りるかを確かめます。
常時閉鎖式の扉は対象ではない
いつも閉まっていて、押せば開く防火扉(常時閉鎖式)は、この検査の対象ではありません。対象になるのは、普段は開いていて火災のときに閉まる「随時閉鎖式」のものです。自分の建物にどちらがあるかで、検査が要るかどうかが変わります。
防火設備定期検査が独立した経緯
この検査が独立した背景には、実際に起きた火災があります。防火扉やシャッターの前に物が置かれていて閉まらなかった、あるいは機構が固着して動かなかったという事例が重なり、専門の資格者が個別に検査する制度として切り出されました。
そのため検査の中身は、外観を見るだけでは終わりません。実際に連動させて動かす作動の確認が中心になります。
| 以前 | 現在 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 特定建築物定期調査の一部 | 独立した定期検査 |
| 検査する人 | 調査資格者 | 防火設備検査員など |
| 報告 | 建築物の報告に含まれる | 防火設備として別に報告 |
「昔から特定建築物の調査は出している」という建物でも、防火設備の報告は別に要ります。ここが抜けたまま何年も過ぎているケースが実際にあります。
特定建築物定期調査のほうは特定建築物定期調査とはにまとめています。
対象になる建物と報告の時期
対象になる建物は、特定行政庁が指定したものとされています。用途・規模・階数で指定されるため、全国一律ではありません。同じような建物でも、市が違えば対象かどうかが変わることがあります。
報告の時期も同様で、おおむね6か月から1年までの間隔で、特定行政庁が定める時期とされています。多くの地域で年1回の運用になっていますが、自分の建物がいつ出すのかは、所在地の特定行政庁のサイトか窓口で確認します。
| 確かめること | どこで |
|---|---|
| 自分の建物が対象か | 特定行政庁(都道府県・市の建築部門) |
| 報告の時期と周期 | 同上。用途ごとに月が決まっていることがある |
| 提出先 | 特定行政庁、または委託されている検査機関 |
| 様式 | 同上。地域ごとに書式が異なる |
通知が届くから気づく、という運用になっている地域もあります。ただし通知が来ない地域や、宛先が古いまま届いていない建物もあるため、通知を待つ形にしないのが安全です。
提出先は消防署ではない
ここが混乱しやすいところです。防火設備定期検査の報告先は、消防署ではなく特定行政庁です。建築基準法に基づく検査なので、建物を所管する建築部門へ出します。地域によっては、建築センターなどの財団が受付や予備審査を担っています。
消防の点検との違い
防火設備定期検査は、消防法に基づく点検とは別の制度です。防火扉やシャッターは、消防設備点検でも見られることがあるため、「二重に見てもらっているのでは」と感じる場面があります。
| 防火設備定期検査 | 消防設備点検 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 建築基準法 第12条第3項 | 消防法 第17条の3の3 |
| 見るもの | 防火扉・シャッター等が閉まるか | 消火・警報・避難の設備が動くか |
| 検査する人 | 防火設備検査員・建築士など | 消防設備士・消防設備点検資格者 |
| 報告先 | 特定行政庁 | 消防長・消防署長 |
| 周期 | おおむね年1回(行政庁が定める) | 機器点検6か月/総合点検1年 |
感知器の作動は消防、扉が閉まるところは建築と分けて覚えると整理しやすくなります。実際には連動して動くので、検査の日を合わせられるなら、同じ日にまとめると館内への周知が1回で済みます。
消防設備点検のほうは消防設備点検とはにまとめています。
誰が検査できるか
検査を行えるのは、防火設備検査員の資格を持つ人、または一級建築士・二級建築士とされています。防火設備検査員は、講習を受けて得られる資格です。
建物の関係者が自分で検査して報告することはできません。日常の見回りで扉の前に物が無いかを確かめることはできますが、報告に使えるのは資格者による検査です。
検査の当日に起きること
検査では実際に防火扉やシャッターを閉じるため、建物を使いながらだと支障が出る場面があります。
- シャッターが下りるので、その通路が一時的に通れなくなる
- 連動して警報が鳴る場合がある
- エスカレーターの周りは、運転を止めることがある
- 店舗では、商品や什器を一時的に移動する必要がある
実施日を事前に入居者や利用者へ周知しておかないと、当日に動かせない場所が出ます。周知の文面には、時間帯と、通れなくなる場所を書いておきます。
報告までの流れ
| 段階 | やること | 誰が |
|---|---|---|
| 1 | 自分の建物が対象か、報告時期はいつかを確認する | 所有者・管理者 |
| 2 | 資格者へ依頼し、検査日を決める | 所有者・管理者 |
| 3 | 扉とシャッターの前を片づける | 管理担当・テナント |
| 4 | 検査を受ける(連動させて実際に閉じる) | 資格者 |
| 5 | 要是正があれば改修する | 所有者 |
| 6 | 報告書を特定行政庁へ提出する | 所有者・管理者 |
| 7 | 控えを保管する | 管理担当 |
3が当日の結果を大きく左右します。シャッターの下に什器が置かれていると、その箇所は検査できません。検査の1週間前に「シャッターと防火扉の下には物を置かない」を周知しておくと、当日の未実施が減ります。
要是正が出たとき
検査結果は「要是正」「要重点点検」「指摘なし」といった区分で示されるのが一般的です。要是正が出た箇所は、直さないと次の検査でも同じ指摘が出ます。
| 指摘の例 | 原因 |
|---|---|
| 途中で止まる | レールの変形、ほこりの堆積 |
| 閉まりきらない | 下に物がある、床の段差 |
| 連動しない | 感知器・連動制御器の故障 |
| 手動で開かない | 機構の固着 |
「途中で止まる」は、ほとんどがレールの汚れです。日常の清掃でシャッターの溝まで手を入れておくと、指摘が減ります。
検査を業者に頼むときに見るところ
防火設備定期検査は、依頼先で段取りの負担が変わります。金額だけで比べると、当日に人手を出すのは自分たち、という形になりがちです。
| 見ること | なぜ |
|---|---|
| 資格の種類 | 防火設備検査員または建築士であること |
| 台数の数え方 | 扉とシャッターの本数で金額が変わる |
| 報告書の提出まで含むか | 提出は所有者の義務。代行の有無を契約で確認 |
| 要是正の改修が別料金か | 検査だけの契約が多い |
| 特定建築物定期調査と同じ業者か | 日程と書類の受け渡しが1回で済む |
「一式」と書かれた見積りは、設備の数を数えていないことがあります。防火扉が何枚、シャッターが何本という内訳が出ているかを見ます。あとから「想定より多かった」で追加請求になるのを防げます。
相見積りを取るなら、次を先に伝えて条件をそろえます。
- 建物の用途・延べ面積・階数
- 防火扉とシャッターのおおよその本数(分かる範囲で)
- 報告書の提出まで含むかどうか
- 実施できる時間帯(営業時間中が難しいか)
4つ目を伝えていないと、夜間の割増が後から乗ることがあります。営業しながら検査できない建物では、ここが金額の差になります。
要是正が出たあとの進め方
検査で要是正が出ても、その場ですべてを直せるとは限りません。すぐ直せるものと、工事が要るものを分けるのが最初の仕事です。
一般には、次のように分けている建物が多くあります。
| 区分 | 例 | 対応 |
|---|---|---|
| その場で直せる | 下に置かれた物、レールのごみ | 当日に片づける |
| 部品の交換で直る | 連動制御器の電池、閉鎖装置 | 数週間で手配 |
| 工事が要る | レールの変形、シャッター本体 | 予算を組んで年度内に |
| 設計から相談 | 区画の変更を伴うもの | 建築士と特定行政庁へ |
上の2つは、報告書を出すまでに片づくことが多くあります。下の2つは時間がかかるため、改修の予定を添えて報告する形にするのが実務です。放置したまま毎年同じ要是正を報告し続けると、指導を受けることがあります。
直した記録を残す
改修が終わったら、いつ・どこを・どう直したかを1行ずつ残しておきます。次の検査で同じ箇所を見られたときに、前回からの経過が説明できます。写真を1枚添えておくと、担当が替わっても分かります。
日常でできること
資格者の検査は年に1回ですが、閉まらない状態は日常の使い方で作られます。日々の巡回で見るのは4つです。
| 見るところ | 確かめること |
|---|---|
| 防火扉の周り | 扉の可動範囲に物が無いか。ドアストッパーで固定していないか |
| シャッターの真下 | 什器・商品・台車が置かれていないか |
| レール・溝 | ごみ、ほこり、変形が無いか |
| 連動制御器 | 異常の表示が出ていないか |
いちばん多いのは、防火扉をくさびやストッパーで開けたままにしているものです。風で閉まるのを嫌って固定してしまうのですが、これでは火災のときに閉まりません。風の通り道になっている扉は、固定ではなく風除けや戸当たりで対処する方向で相談します。
巡回の組み方は設備点検のやり方にまとめています。
よくある質問
特定建築物定期調査を出していれば、防火設備の報告は要りませんか
別の報告として必要とされています。制度が分かれた経緯があるため、古い建物ほど抜けやすいところです。自分の建物が対象かどうかを、所在地の特定行政庁で確認します。
報告先は消防署ですか
いいえ。建築基準法に基づく検査なので、特定行政庁(都道府県や市の建築部門)に報告します。地域によっては、建築センターなどが受付を担っています。消防署へ出すのは消防法に基づく点検の報告です。
常時閉まっている防火扉も検査の対象ですか
この検査の対象は、普段は開いていて火災のときに閉まる随時閉鎖式のものとされています。常時閉鎖式の扉は対象外ですが、自由に開閉できる状態が保たれているかは、日常の管理として確かめておきます。
防火扉が風で閉まるので、ストッパーで止めています
風の通り道になっている扉でよく起きることです。ただし固定してしまうと、火災のときにも閉まりません。戸当たりやドアクローザーの調整、風除けの設置といった方法で対処できる場合があります。固定するのではなく、風の側を抑える方向で設置業者に相談するのが安全です。
検査でシャッターを下ろすと営業に支障が出ます
時間帯を調整することが多くあります。開店前や閉店後に実施する、区画ごとに分けて行うといった形です。日程を決める段階で、動かせない時間帯を業者に伝えておくと段取りが立ちます。
テナントの区画にある防火扉は誰が見ますか
検査は建物単位で行われるため、専有部にある防火扉やシャッターも検査の対象になります。当日に区画へ入れるよう、テナントへの周知は建物の側で行うのが一般的です。周知が届かず入れなかった箇所は、未実施として報告書に残ります。賃貸借契約や館内のルールに、法定検査への協力を1行入れておくと毎回の調整が楽になります。
報告を出していないとどうなりますか
建築基準法に基づく義務とされているため、指導の対象になります。それ以上に、火災のときに区画が働かず被害が広がるおそれがあります。過去の火災でも、防火設備が閉まらなかったことが被害の拡大につながった例が挙げられています。
まとめ
防火設備定期検査は、防火扉やシャッターが火災のときに実際に閉まるかを見る検査です。建築基準法第12条第3項に基づくもので、2016年に特定建築物定期調査から独立しました。古い建物ほど、この報告だけが抜けていることがあります。
対象になる建物と報告の時期は、特定行政庁が指定します。全国一律ではないため、所在地の建築部門で確認します。報告先は消防署ではなく特定行政庁です。
検査は資格者が行い、当日は実際に扉やシャッターを閉じます。シャッターの下に物が置かれていると、その箇所は検査できません。1週間前の周知で、当日の未実施が減ります。
要是正が出たら、その場で直せるものと工事が要るものを分けます。下に置かれた物やレールのごみは当日に片づきますが、本体の変形は予算が要ります。時間のかかるものは、改修の予定を添えて報告する形にするのが実務です。
そして、閉まらない状態をつくるのは日常の使い方です。扉をストッパーで固定しない、シャッターの真下に物を置かない、レールの溝を掃除する。この3つを巡回に入れておくと、年1回の検査は確認だけで終わります。