省エネ法の定期報告|対象になる条件と毎年の提出
目次
省エネ法の定期報告は、設備の点検ではなく、数字を集めて出す仕事です。消防や建築の報告と違って現場を見に来る人がいないぶん、担当者が替わった年に丸ごと抜けることがあります。
この記事では、省エネ法の定期報告を、対象になる条件、何を集めるか、毎年の段取り、中長期計画書、引き継ぎの順に整理します。制度の名称や様式、提出先は改正で変わることがあります。自分の事業者に何が適用されるかは、所管の経済産業局または資源エネルギー庁の案内で確認してください。
結論:事業者単位。建物単位ではない
ここが他の報告といちばん違うところです。省エネ法の報告は、建物ごとではなく事業者全体で見ます。
| 省エネ法の定期報告 | 消防・建築の報告 | |
|---|---|---|
| 単位 | 事業者全体(全社の合計) | 建物ごと |
| 提出先 | 国(経済産業局など) | 消防署/特定行政庁 |
| 中身 | エネルギーの使用量と取組み | 設備の状態 |
| 現地を見るか | 見に来ない | 検査・調査がある |
| 頻度 | 毎年度 | 年1回〜3年に1回 |
「うちのビルは小さいから関係ない」では判断できません。複数の建物や店舗を持っている事業者では、全部を足した量で対象かどうかが決まります。
エネルギーを合計して判断する
電気、ガス、灯油、重油などを原油に換算した量に直して合計します。一定の量(原油換算で年間1,500キロリットル)以上になると、特定事業者等として指定され、定期報告などが求められることとされています。
1棟のビルだけを見ていても分かりません。本社が全社ぶんをまとめている場合、施設の担当者は「うちの分の数字を出す人」になります。自分の役割がどちらかを、まず確かめます。
何を集めるか
報告に使うのは、すでに手元にあるものがほとんどです。新しく測る必要はありません。
| 集めるもの | どこから |
|---|---|
| 電気の使用量 | 電力会社の請求書・検針票 |
| ガスの使用量 | ガス会社の請求書 |
| 灯油・重油・軽油 | 購入の伝票 |
| 熱(地域冷暖房など) | 供給事業者の請求書 |
| 床面積 | 建物の資料 |
| 取組みの内容 | 実施した省エネの工事・運用 |
1つ目が本体です。毎月の検針票を12か月ぶん並べれば、その建物の年間使用量が出ます。これを毎月ためておくかどうかで、年度末の負担が変わります。
毎月ためるか、年度末に集めるか
年度末にまとめて集めようとすると、過去の請求書を探すところから始まります。電子化されていれば取り出せますが、事業所ごとにばらばらだと時間がかかります。
一般には、次のようにしている建物があります。
- 検針票が届いたら、その月のうちに1行書き足す
- 電力会社のウェブ明細をダウンロードして保存しておく
- 同じ様式を全事業所で使う
- 前年の同じ月と並べておく
4つ目が効きます。数字を並べておくと、報告に使えるだけでなく、設備の異常にも気づけます。空調の冷媒が漏れていると電気の使用量が上がることがあります。空調の話は空調設備の点検にまとめています。
毎年の段取り
報告は年度ごとに動きます。年度が変わってから慌てない形にしておきます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 年度の途中 | 毎月の使用量を記録し続ける |
| 年度末 | 12か月ぶんがそろっているか確認する |
| 年度明け | 数値をまとめ、換算する |
| 提出の時期 | 定期報告書などを提出する |
| 提出後 | 控えを保管し、次年度の様式を確認する |
提出の期限は決まっています。年度が明けてから作業を始めると、数字集めと確認で時間が足りなくなります。年度末に12か月そろっているかを確かめておくだけで、あとの作業が短くなります。
様式は毎年確認する
報告の様式や提出の方法は、改正で変わることがあります。前年と同じつもりで作ると、項目が増えていたり、電子での提出に変わっていたりします。
作業を始める前に、所管の案内でその年の様式を確かめるのを手順の最初に置いておきます。前年度の控えは形を真似するために使い、様式そのものは新しいものを取りに行く、という分け方です。
抜けやすいところ
- 年度の途中で開いた店舗・閉じた店舗
- 契約を切り替えた月(電力会社を変えた)
- 検針の期間と年度のずれ
- 共用部と専有部の切り分け
- テナントが直接契約している分の扱い
3つ目がややこしいところです。検針票の期間は月の途中から途中までになっていることがあり、年度の区切りと合いません。扱い方を毎年同じにしておくと、前年と比べられます。
5つ目は建物の形によって変わります。テナントが電力会社と直接契約している場合の扱いを、最初に確認しておきます。
中長期計画書
定期報告のほかに、中長期的な計画を出すことが求められる場合があります。こちらは「これから何をするか」を書くものです。
| 書くこと | 内容 |
|---|---|
| 設備の更新 | 空調、照明、受変電設備の入替 |
| 運用の改善 | 温度設定、運転時間、こまめな停止 |
| 実施の時期 | いつやるか |
| 見込まれる効果 | どのくらい減るか |
施設の担当者がいちばん貢献できるのがここです。「そろそろ空調を入れ替える」「照明をLEDにする」といった現場の計画が、そのまま書く内容になります。
修繕の計画と同じ紙にする
省エネの計画と、建物の修繕の計画は同じ設備の話です。別々に管理すると、片方だけ更新されて食い違います。
一般には、次のように1つの表にまとめている建物があります。
- 設備の名前と設置年
- 更新の予定年
- 概算の費用
- 省エネの効果(見込み)
- 法定点検の周期
この表があると、報告を書くときにそのまま使えます。一覧のつくり方は建物の法定点検一覧にまとめています。
数字が使えるようになる
報告のために集めた数字は、報告のためだけのものではありません。並べておくと、建物の状態が見えるようになります。
| 見かた | 分かること |
|---|---|
| 前年の同じ月と比べる | 季節の影響を除いた変化 |
| 月ごとに並べる | 夏と冬の山の高さ |
| 床面積で割る | 他の建物と比べられる |
| 改修の前後で比べる | 工事の効果 |
| 急に増えた月を探す | 設備の異常のサイン |
5つ目が実務で効きます。誰も使っていないはずの時間帯に電気が増えている、去年より夏の山が高い。こうした変化は、空調の不調や運転設定の変更で起きていることがあります。
「報告のために集めた数字が、設備の異常を先に教えてくれる」という使い方ができます。
現場でできる省エネ
報告のために数字を出すだけでなく、減らす取組みも書くことになります。大きな設備投資がなくてもできることがあります。
| やること | 効きやすい場所 |
|---|---|
| 空調の設定温度と運転時間の見直し | 事務所、共用部 |
| フィルタの清掃 | 空調全般 |
| 室外機の周りを空ける | 屋上、建物の裏 |
| 共用部の照明の間引き・LED化 | 廊下、階段、駐車場 |
| 使っていない区画の空調を止める | 空室、倉庫 |
| 給湯の温度設定 | 給湯室、浴室 |
3つ目は費用がかかりません。室外機の吹出しや吸込みが塞がれていると、出した熱を吸い直して効率が落ちます。巡回で見て片づけるだけで効きます。
空調の点検と合わせた見かたは空調設備の点検にまとめています。
運用の見直しは記録に残す
「いつから何を変えたか」を書いておくと、翌年の数字と突き合わせられます。
- 変更した日
- 変えた内容(設定温度、運転時間、止めた区画)
- 対象の範囲
- 変更の前後の使用量
4つ目まで残しておくと、報告書の「取組み」の欄がそのまま書けます。効果が出ていなければ、別の手を考える材料にもなります。
テナントとの関係
テナントビルでは、使っているのはテナント、報告するのは建物側という形になります。ここに難しさがあります。
| 課題 | 考え方 |
|---|---|
| 専有部の使い方に手を出せない | 押しつけずに、情報を共有する |
| 使用量が分からない | テナントが直接契約している場合 |
| 協力が得られにくい | 電気代はテナントの負担でも、報告は建物側 |
| 入替で条件が変わる | 業態が変わると使用量も変わる |
2つ目が実務の壁です。テナントが電力会社と直接契約している場合、建物側では数字が見えません。入居のときに、使用量の情報提供について取り決めておくと後が楽です。
一般には、次のような形で協力を得ている建物があります。
- 建物全体の使用量の推移を共有する
- 共用部で先に取り組み、その結果を示す
- 空調の設定について、一般的な目安を案内する
- 退去・入居のときに条件を確認する
> 一般には、夏の設定温度を28度前後、冬を20度前後の目安にしている事務所が多くあります。
否定から入らず、一般的な形を先に示すほうが協力を得やすくなります。
引き継ぎに入れておく
省エネ法の報告は、現場を見に来る人がいないぶん、抜けても誰も指摘してくれません。担当が替わった年に丸ごと飛ぶ、という形が起こり得ます。
次の5つを1つのファイルにまとめておきます。
- 自社が対象かどうか(指定を受けているか)
- 前年度の報告書の控え
- 毎月の使用量を記録している表と、その置き場所
- 本社・他部署との役割分担(誰が全社分をまとめるか)
- 提出の期限と、所管の窓口
2つ目があると、次の人が形を真似できます。ゼロから様式を探すのと、前年のものを見ながら書くのとでは、かかる時間がまったく違います。
本社と現場の役割を書いておく
複数の事業所を持つ会社では、本社が全社分をまとめ、各事業所は自分の数字を出すという分担が多くあります。
この分担が口頭でしか決まっていないと、担当が替わったときに止まります。「毎年◯月に本社から依頼が来るので、前年度の使用量を返す」という1行があるだけで続きます。
よくある質問
省エネ法の定期報告は、うちの建物も対象ですか
判断は建物ごとではなく事業者全体で行います。電気やガスなどを原油に換算して合計し、一定の量以上になると特定事業者等として指定されることとされています。まず自社が指定を受けているかを本社や管理部門に確認します。
何を集めればよいですか
電気・ガス・灯油などの使用量です。新しく測る必要はなく、請求書や検針票の数字を使います。毎月1行ずつ書き足しておくと、年度末の負担が大きく減ります。
毎年いつ提出しますか
年度ごとに動き、提出の期限が定められています。年度が明けてから数字を集め始めると間に合わないことがあるため、年度末に12か月ぶんがそろっているかを確認しておきます。期限と様式は所管の案内で確認します。
検針の期間が年度と合いません
検針票の期間は月の途中から途中までになっていることがあります。扱い方を毎年同じにしておくと、前年と比べられます。判断に迷う場合は所管の窓口に確認し、その扱いを引き継ぎの資料に書いておきます。
中長期計画書には何を書きますか
設備の更新と運用の改善です。空調や照明の入替、温度設定や運転時間の見直しといった、現場の計画がそのまま内容になります。建物の修繕計画と同じ表にまとめておくと、食い違いません。
テナントが直接電力会社と契約しています
扱いは建物の形と契約によって変わります。共用部と専有部の切り分けも含めて、最初に所管の窓口へ確認し、その扱いを毎年同じにします。判断を資料に残しておかないと、担当が替わったときに変わってしまいます。
集めた数字は他に使えますか
設備の異常のサインとして使えます。前年の同じ月と比べて急に増えている、夏の山が高くなっている、といった変化は、空調の不調や運転設定の変更で起きていることがあります。報告のために集めた数字が、点検より先に異常を教えてくれることがあります。
費用をかけずにできることはありますか
室外機の周りを空けるのは費用がかかりません。吹出しや吸込みが塞がれていると、出した熱を吸い直して効率が落ちます。あわせて、空調のフィルタの清掃、設定温度と運転時間の見直し、使っていない区画の空調を止めることも効きます。
テナントの使用量が分かりません
テナントが電力会社と直接契約している場合、建物側では数字が見えません。入居のときに、使用量の情報提供について取り決めておくと後が楽です。既存のテナントには、建物全体の推移を共有し、共用部で先に取り組んだ結果を示すところから始めます。
前年度の報告書が見当たりません
本社や管理部門に控えがあることが多く、そこから探すのが早道です。所管の窓口に照会できる場合もあります。見つかったら、次の担当者のために同じ場所へ保管し、置き場所を引き継ぎの資料に書いておきます。
担当が替わるときに何を渡しますか
自社が対象かどうか、前年度の報告書の控え、毎月の記録の表と置き場所、本社との役割分担、提出の期限と窓口の5つです。前年度の控えがあると、次の人が形を真似できます。
まとめ
省エネ法の定期報告は、事業者全体で見るという点が、消防や建築の報告と大きく違います。建物1棟だけを見ていても対象かどうかは判断できないので、まず自社が指定を受けているかを確かめます。
集めるのは、電気・ガス・灯油などの使用量です。新しく測るものはなく、請求書と検針票の数字を使います。毎月1行ずつ書き足しておくと、年度末の負担が大きく減ります。
中長期計画書では、設備の更新と運用の改善を書きます。ここは施設の担当者がいちばん貢献できる部分で、建物の修繕計画と同じ表にまとめておくと食い違いません。
そして、現場を見に来る人がいないぶん、抜けても誰も指摘してくれません。前年度の報告書の控え、毎月の記録の置き場所、本社との役割分担。この3つを引き継ぎのファイルに入れておくと、担当が替わった年に止まらずに済みます。