昇降機等定期検査|保守点検との違いと報告の流れ
目次
昇降機等定期検査は、エレベーターの保守点検と混同されやすい検査です。保守会社が毎月来ているから、検査も済んでいると思われていることがありますが、この2つは別のものです。毎月の保守は契約に基づくもの、定期検査は建築基準法に基づいて特定行政庁へ報告するものです。
この記事では、昇降機等定期検査を、保守点検との違い、対象になる昇降機、検査できる人、報告までの流れ、判定の読み方の順に整理します。対象や報告の時期は建物の用途・規模と特定行政庁(都道府県や市の建築部門)の定めで変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所在地の特定行政庁に確認してください。
結論:昇降機等定期検査は報告する検査、保守点検は契約の点検
昇降機等定期検査は、建築基準法第12条第3項に基づく検査です。資格者が検査し、その結果を特定行政庁へ報告するところまでが1つの制度になっています。
| 昇降機等定期検査 | 保守点検 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 建築基準法 第12条第3項 | 保守契約(法令上の義務ではない) |
| 周期 | おおむね年1回(特定行政庁が定める) | 契約による。月1回が多い |
| 検査する人 | 昇降機等検査員・建築士 | 保守会社の技術者 |
| 報告 | 特定行政庁へ報告する | 報告義務はない。報告書は所有者へ |
| 結果の扱い | 検査済証が交付される | 契約上の記録 |
毎月の保守点検をいくら丁寧にやっても、定期検査の報告にはなりません。逆に、定期検査だけ受けて日常の保守をしていないと、故障や閉じ込めが増えます。役割が違うので、どちらも要るという形になります。
実務では同じ会社がやっていることが多い
保守会社が昇降機等検査員を抱えていて、保守契約の中に定期検査と報告が含まれている建物が多くあります。この場合、所有者から見ると1つの委託に見えます。
ただし契約に含まれているとは限りません。「定期検査は別途」となっている契約もあります。契約書のどこに定期検査と報告が書かれているかを、一度は確かめておくのが安全です。
対象になる昇降機
対象は、建築基準法上の昇降機とされているものです。エレベーターだけではありません。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| エレベーター | 乗用、人荷用、寝台用、荷物用 |
| エスカレーター | 上下階をつなぐもの |
| 小荷物専用昇降機 | 配膳用のもの(いわゆるダムウェーター) |
| 遊戯施設 | 観覧車、コースターなど(該当する施設のみ) |
小荷物専用昇降機が抜けやすいところです。飲食店や病院にある配膳用のものは、人が乗らないため意識から外れがちですが、一定の条件に当たるものは報告の対象になるとされています。
対象外になるものもある
一定の規模以下のものや、特定の用途のものは対象外とされている場合があります。また、住宅に設置されたホームエレベーターの扱いは、一般の建物とは異なる運用になっていることがあります。
自分の建物にある昇降機の1台ごとに、対象かどうかを確かめるのが確実です。判断は所在地の特定行政庁で確認します。
誰が検査できるか
検査を行えるのは、昇降機等検査員の資格を持つ人、または一級建築士・二級建築士とされています。昇降機等検査員は、講習を受けて得られる資格です。
所有者や管理者が自分で検査して報告することはできません。日常で異音や振動に気づいて保守会社へ伝えることはできますが、報告に使えるのは資格者による検査です。
検査の当日に起きること
検査では実際に昇降機を動かすため、使えない時間が出ます。
- そのエレベーターが一時的に停止する
- かごの上や機械室に検査員が入る
- 非常停止装置や戸の安全装置を意図的に作動させる
- エスカレーターは運転を止め、踏段を外すことがある
エレベーターが1台しかない建物では、階段を使う時間が出ます。車いすの利用者や高齢の入居者がいる場合は、時間帯を事前に知らせて、別の手段を用意しておく必要があります。周知の文面に「停止する時間帯」と「その間の移動手段」を書いておきます。
報告までの流れ
| 段階 | やること | 誰が |
|---|---|---|
| 1 | 対象の昇降機と報告時期を確認する | 所有者・管理者 |
| 2 | 検査員へ依頼し、検査日を決める | 所有者・管理者(保守契約に含むことも) |
| 3 | 利用者へ周知する | 管理担当 |
| 4 | 検査を受ける | 昇降機等検査員 |
| 5 | 要是正があれば改修する | 所有者 |
| 6 | 報告書を特定行政庁へ提出する | 所有者・管理者 |
| 7 | 検査済証を掲示し、報告書の副本を保管する | 管理担当 |
7で止まる建物があります。検査済証を交付されても、かごの中に掲示していない、あるいは古いものを貼ったままになっている状態です。利用者から見える場所に、最新のものを掲示するのが本来の形です。
報告書の副本は保管する
報告書の副本(控え)は、一定の期間、保管することとされています。次の検査のときに前回の指摘との比較ができるので、実務上も手元にあったほうが早く進みます。
保管しているつもりで、保守会社の手元にしかないということが実際にあります。委託していても、所有者側にも1部残す形にしておきます。
保管や期限の管理のしかたは建物の法定点検一覧にまとめています。
判定の読み方
検査結果は、項目ごとに区分で示されるのが一般的です。言葉の意味が分かると、報告書が読めるようになります。
| 区分 | 意味 | 対応 |
|---|---|---|
| 指摘なし | 基準に適合している | そのまま |
| 要重点点検 | すぐに危険ではないが、経過を見る必要がある | 次回まで注意して見る |
| 要是正 | 基準に適合していない | 改修する。放置しない |
「要重点点検」を「問題なし」と読んでしまうのが、いちばん多い誤読です。これは「今は動くが、劣化が進んでいる」という意味に近く、次の検査までに悪化すれば要是正になります。
要是正が出たとき
要是正は、直さないと次の検査でも同じ指摘が出ます。ただし昇降機の改修は金額が大きくなることがあり、すぐに手配できない場合もあります。
一般には、次のように整理して進めている建物が多くあります。
- 安全に直結するもの(戸の安全装置、非常止め、ブレーキ)は最優先
- 部品の交換で済むものは年度内に手配する
- 制御盤やロープの更新は、複数年の計画に入れる
- 改修の予定を添えて報告する
金額の大きいものほど、早く相談を始めるほうが選択肢が残ります。設置から年数が経った機種は部品の供給が終わっていることがあり、その場合は更新(リニューアル)が前提になります。
保守契約の種類を知っておく
定期検査の話をすると、必ず保守契約の話になります。契約の型によって、部品の交換が別料金になるかどうかが変わるためです。一般には大きく2つの型に分かれています。
| 型 | 含まれるもの | 特徴 |
|---|---|---|
| フルメンテナンス | 点検に加えて、部品の交換や修理まで含む | 月々は高い。突発の出費が出にくい |
| POG(パーツ・オイル・グリス) | 点検と、消耗品の交換まで | 月々は安い。部品の交換は別途 |
POGの契約で、制御盤や主要部品が寿命を迎えると、そこで大きな金額が出ます。どちらが良いという話ではなく、設置からの年数と、突発の出費を許容できるかで選ぶものです。
一般には、設置から年数が浅いうちはPOG、部品の交換が増えてきたらフルメンテナンスへ切り替える、という考え方をとる建物が多くあります。契約を見直すときは、直近3年で別途請求になった金額を足してから比べると判断がしやすくなります。
定期検査と報告が含まれているか
ここが本題です。契約の型に関わらず、定期検査と特定行政庁への報告が含まれているかは別に書かれています。「法定検査費用は別途」となっていれば、その分は毎年の予算に入れておく必要があります。
含まれていないことに気づかないまま、報告だけ何年も出ていないという状態が実際にあります。契約書の該当箇所を1回確かめれば済む話です。
地震や停電のあとにすること
エレベーターは、地震を感知すると自動で最寄り階に止まる装置が付いているものが一般的です。止まったあとの復旧は、機種と設定で扱いが変わります。
| 状態 | 対応 |
|---|---|
| 自動で復旧するもの | 一定時間で通常運転に戻る |
| 手動の復旧が要るもの | 保守会社の作業が必要になる |
| かご内に人がいる | 最優先で保守会社へ連絡 |
大きな地震のあとは、保守会社への連絡が集中します。復旧までに時間がかかることを前提に、階段での移動が必要になる人を先に把握しておくと対応が落ち着きます。
停電のあとも同じです。復電しても自動で戻らない機種があります。復旧の手順を管理室に貼っておくと、担当が不在でも初動が取れます。
日常でできること
定期検査は年に1回ですが、異常は日常のほうが先に現れます。利用者が最初に気づくことも多いので、気づいたことが管理者まで届く形にしておきます。
| 気づくこと | 何を疑うか |
|---|---|
| 着床がずれる(段差ができる) | 制御・ブレーキの調整 |
| 異音・振動が増えた | ロープ、ガイド、駆動部 |
| 戸の開閉が遅い・引っかかる | 戸の駆動装置、敷居の異物 |
| ボタンや表示が点かない | 電気系統 |
| 閉じ込めが増えた | 制御系。保守会社へ早めに連絡 |
敷居の溝にごみが詰まっていると、戸が引っかかります。日常の清掃で溝まで手を入れるだけで、戸の不具合はかなり減ります。
閉じ込めへの備え
エレベーターがある建物では、閉じ込めが起きたときの連絡先と手順を、管理室に貼っておくのが実務です。かご内のインターホンがどこにつながるか、保守会社の緊急連絡先は何番か、地震で止まったときに誰が復旧させるか。夜間や休日に誰が対応するかまで決めておくと、実際に起きたときに慌てません。
巡回の組み方は設備点検のやり方にまとめています。
よくある質問
保守点検を毎月してもらっていますが、定期検査も必要ですか
必要とされています。保守点検は契約に基づくもの、定期検査は建築基準法に基づいて特定行政庁へ報告するもので、別の制度です。保守契約に定期検査と報告が含まれていることもあるため、契約書を確かめます。
報告先は消防署ですか
いいえ。建築基準法に基づく検査なので、特定行政庁(都道府県や市の建築部門)に報告します。地域によっては、建築設備・昇降機の検査を扱う財団などが受付を担っています。
検査の日は何時間くらいかかりますか
台数と種類によりますが、1台あたり数時間を見ておく建物が多くあります。エスカレーターは踏段を外して内部を見るため、エレベーターより長くなることがあります。日程を決める段階で、1台ごとの所要時間と、止まる順番を聞いておくと、周知の文面に具体的な時間帯を書けます。
配膳用の小さな昇降機も対象ですか
一定の条件に当たる小荷物専用昇降機は、報告の対象になるとされています。人が乗らないため意識から外れやすいところです。自分の建物にあるものが対象かどうかは、特定行政庁で確認します。
閉じ込めが起きたら何をしますか
まずかご内のインターホンで応答し、中の人と話せる状態を保ちます。そのうえで保守会社の緊急連絡先へ連絡します。自分で扉をこじ開けようとするのは危険なので行いません。連絡先と手順を管理室に貼り、夜間や休日に誰が対応するかまで決めておくと、実際に起きたときに慌てません。
検査済証はどこに貼りますか
かごの中など、利用者から見える場所に掲示するのが一般的です。古いものが貼られたままになっていないか、年に1回の入れ替えを忘れないようにします。
フルメンテナンスとPOGはどちらがよいですか
どちらが良いという話ではなく、設置からの年数と、突発の出費を許容できるかで決まります。年数が浅いうちはPOGで足り、部品の交換が増えてきた建物ではフルメンテナンスのほうが総額で落ち着くことがあります。直近3年で別途請求になった金額を足してから比べると判断しやすくなります。
エレベーターの更新はいつ考えればよいですか
一般には、設置から相当の年数が経ち、部品の供給が終わっている機種になったところが1つの区切りとされています。故障してから探すと、代替の部品が無く長期間止まることがあります。設置年と機種を一覧に控えておき、保守会社に供給の状況を聞いておくと、計画を立てる時間が取れます。
要是正が出ましたが、すぐに直せません
安全に直結する項目は最優先で手配します。金額の大きい改修は、改修の予定を添えて報告する形にするのが実務です。放置したまま毎年同じ要是正を報告し続けると、指導を受けることがあります。
まとめ
昇降機等定期検査は、建築基準法に基づく検査で、結果を特定行政庁へ報告するところまでが制度です。毎月の保守点検は契約に基づくもので、これをやっていても報告にはなりません。保守契約に定期検査が含まれているかを、契約書で確かめておきます。
対象はエレベーターだけではありません。エスカレーターや、配膳用の小荷物専用昇降機も、一定の条件に当たるものは対象になります。台ごとに対象かどうかを確かめておくと抜けが出ません。
報告書の判定は3区分です。「要重点点検」を「問題なし」と読まないのが大事なところで、これは劣化が進んでいるという意味に近く、放っておくと次は要是正になります。
保守契約には、部品の交換まで含むフルメンテナンスと、点検と消耗品までのPOGがあります。どちらの型でも、定期検査と報告が含まれているかは別に書かれています。「法定検査費用は別途」なら、毎年の予算に入れておきます。
そして、異常は日常のほうが先に出ます。着床のずれ、異音、戸の引っかかり、閉じ込めの増加は、保守会社へ早めに伝える材料になります。閉じ込めが起きたときの連絡先と手順は、管理室に貼っておきます。