防火対象物点検とは?対象の建物と消防設備点検との違い
目次
防火対象物点検は、消防設備点検とよく混同されます。名前が似ているうえ、どちらも消防法に基づく点検で、どちらも消防署へ報告するからです。ただし見ているものがまったく違います。消防設備点検は設備が動くかを見るもので、防火対象物点検は建物の管理のしかたが基準どおりかを見るものです。
この記事では、防火対象物点検を、対象になる建物、消防設備点検との違い、点検できる人、見られる項目、報告と特例認定の順に整理します。対象の判定は建物の用途・収容人員・階段の数で変わります。自分の建物が対象かどうかは、所轄の消防署に確認してください。
結論:防火対象物点検は「管理が基準どおりか」を見る
防火対象物点検でいちばん多い勘違いは、消防設備点検をやっているから防火対象物点検も済んでいる、と思ってしまうことです。この2つは根拠となる条文も、点検する人の資格も、対象になる建物も別です。
| 防火対象物点検 | 消防設備点検 | |
|---|---|---|
| 何を見るか | 建物の管理が基準どおりか | 設備が正しく動くか |
| 根拠 | 消防法第8条の2の2 | 消防法第17条の3の3 |
| 点検する人 | 防火対象物点検資格者 | 消防設備士・消防設備点検資格者 |
| 周期 | 1年に1回 | 機器点検6か月/総合点検1年 |
| 対象 | 収容人員などの条件に当たる建物 | 消防用設備等が設置された建物 |
防火対象物点検の対象になる建物は、消防設備点検の対象より狭くなります。消防用設備が1つでも設置されていれば消防設備点検の対象ですが、防火対象物点検は収容人員などの条件に当たる建物だけが対象です。
消防設備点検のほうは消防設備点検とはにまとめています。
防火対象物点検の対象になる建物
防火対象物点検の対象は、特定防火対象物のうち、一定の条件に当たるものとされています。特定防火対象物とは、飲食店・物販店・ホテル・病院・福祉施設など、不特定多数の人が出入りする建物のことです。
条件はおおむね次の2つに整理されます。
| 区分 | 条件 |
|---|---|
| 収容人員で決まるもの | 収容人員が300人以上の特定防火対象物 |
| 階段の数で決まるもの | 収容人員が30人以上300人未満で、特定用途が地階または3階以上の階にあり、かつ屋内の階段が1系統しかないもの |
2つ目の条件には例外があり、屋外に避難用の階段が設けられている場合は対象から外れるとされています。また、自力での避難が難しい人が利用する施設(いわゆる6項ロの施設)が入っている建物では、収容人員10人以上で対象になるとされています。
収容人員は従業員の数ではない
ここでつまずく施設が多くあります。収容人員は、その建物にいられる人数として算定されるもので、従業員の数ではありません。飲食店なら客席の部分と従業者の数、物販店なら売場の面積というように、用途ごとに決まった数え方があります。
自分で数えて「300人もいないから対象外」と判断するのは危ない部分です。図面を持って所轄の消防署で確認するのが確実です。用途が複数入っている雑居ビルでは建物全体で数えるため、1つのテナントから見た感覚とは大きくずれます。
誰が防火対象物点検をできるか
防火対象物点検を行えるのは、防火対象物点検資格者とされています。講習を受けて得られる資格で、受講には消防設備士や防火管理者などとしての一定年数の実務経験が必要とされています。
建物の関係者が自分で点検することはできません。ここが消防設備点検と違うところです。消防設備点検は、一定の規模・用途までなら関係者が自分で行ってよいことになっていますが、防火対象物点検は資格者による点検が前提です。
防火管理者とは別の資格
防火管理者の資格を持っていても、それだけで防火対象物点検はできません。防火管理者は建物の側で選任される人、防火対象物点検資格者は点検を行う人で、役割が別です。防火管理者については防火管理者とはにまとめています。
防火対象物点検で見られる項目
見られるのは、防火管理の業務が実際に回っているかです。書類がそろっているかだけでなく、届出が出ているか、訓練が実施されているかまで確認されます。
| 見られること | 具体的に |
|---|---|
| 防火管理者の選任 | 選任され、選任届が出ているか |
| 消防計画 | 作成され、届出が出ているか |
| 訓練の実施 | 消火・通報・避難の訓練を行っているか |
| 消防用設備等 | 点検と報告が行われているか |
| 避難施設の管理 | 避難口・廊下・階段に物が置かれていないか |
| 防炎物品 | カーテン・じゅうたんに防炎の表示があるか |
| 危険物 | 指定数量未満の貯蔵・取扱いが基準どおりか |
いちばん指摘が出やすいのは避難施設の管理です。階段の踊り場に段ボールを積んでいる、防火扉の前に什器を置いている、といったものは、点検の当日だけ片づけても意味がありません。日常の状態が見られます。
消防設備点検の報告も見られる
防火対象物点検の項目には、消防用設備等の点検と報告が行われているかが入っています。つまり消防設備点検の報告を出していないと、防火対象物点検の側でも不備になります。この2つは別の制度ですが、片方がもう片方を参照する形でつながっています。
報告の出し方は消防設備点検報告書の出し方にまとめています。
防火対象物点検の報告までの流れ
| 段階 | やること | 誰が |
|---|---|---|
| 1 | 自分の建物が対象かを確認する | 管理権原者・防火管理者 |
| 2 | 防火対象物点検資格者へ依頼する | 管理権原者 |
| 3 | 書類(消防計画・訓練の記録・設備点検の報告書)をそろえる | 防火管理者 |
| 4 | 点検を受ける | 資格者 |
| 5 | 不備があれば是正する | 管理権原者 |
| 6 | 点検結果報告書を消防署へ提出する | 管理権原者 |
| 7 | 点検済証を掲示する(基準に適合した場合) | 管理権原者 |
3で止まる建物が多くあります。訓練を実施していても記録が残っていない、消防計画を作ったが届出を出していない、というものです。点検の直前に慌ててそろえるのではなく、日々の業務として記録を残しておくと、点検は確認だけで済みます。
記録の残し方は消防訓練の進め方と消防計画の作り方にまとめています。
報告するのは管理権原者
報告の義務があるのは管理権原者です。建物の所有者、あるいはその部分を管理する権原を持つ人を指します。テナントビルでは、建物全体の管理権原者と、各テナントの管理権原者が別になることがあります。
誰が管理権原者なのかが決まっていないビルでは、報告が誰の仕事にもなりません。賃貸借契約や管理規約で、どこまでが誰の管理範囲かを最初に整理しておきます。
特例認定を受けると3年間免除される
防火対象物点検には、特例認定という仕組みがあります。申請して消防機関の検査を受け、一定の要件を満たしていると認められると、3年間、点検と報告が免除されるとされています。
要件はおおむね次のとおりとされています。
- 管理を開始してから3年以上が経過していること
- 過去3年以内に、点検結果の報告を怠ったことがないこと
- 過去3年以内に、消防法令違反による命令を受けていないこと
- 防火管理者の選任、消防計画の届出、設備の点検報告が適正に行われていること
認定を受けると防火優良認定証(いわゆる優マーク)を掲示できるとされています。3年経つと効力を失うため、継続するには改めて申請が必要です。
認定を受けても、消防設備点検は免除されません。免除されるのは防火対象物点検のほうだけです。ここも混同しやすいところです。
テナントビルでの分担の決め方
防火対象物点検でいちばん揉めるのが、テナントビルで誰が何をするかです。管理権原者が複数に分かれている建物では、点検も報告も分担が必要になります。
一般には、次のように分けている建物が多くあります。
| 範囲 | 誰が見るか |
|---|---|
| 共用部(廊下・階段・機械室・屋上) | ビルのオーナーまたは管理会社 |
| 専有部(テナントの区画の中) | 各テナント |
| 建物全体の消防計画 | 統括防火管理者 |
自分の建物がこの形になっているかを、契約書で確かめておくのが出発点です。管理委託契約に「防火管理業務」と書かれていても、防火対象物点検の報告まで含むかは別に書かれていることがあります。
統括防火管理者がいる建物
管理権原が分かれている一定の建物では、建物全体を見る統括防火管理者を定めることとされています。各テナントの防火管理者とは別に置かれる役割で、建物全体の消防計画を作り、避難訓練を全体で行う旗振り役になります。
統括防火管理者が決まっていない建物では、全体の訓練が誰の仕事にもなりません。点検で真っ先に指摘が出るのがここです。
点検の前に自分で確かめておくこと
資格者に来てもらう前に、次の5つを自分で見ておくと、当日の指摘がほとんど無くなります。どれも建物の中を歩けば確認できるものです。
| 見るところ | 確かめること |
|---|---|
| 階段・廊下 | 物が置かれていないか。幅がふさがれていないか |
| 防火扉・防火シャッター | 前後に物が無いか。閉まるのを妨げていないか |
| 避難口 | 内側から鍵なしで開くか。表示が見えるか |
| カーテン・じゅうたん | 防炎の表示(ラベル)が付いているか |
| 書類のとじ込み | 選任届・消防計画・訓練の記録・設備点検の報告書 |
書類は、写しではなく「受付印のあるもの」を残しておくと確認が早く終わります。届出を出したつもりで控えだけ手元にある、という状態が実際にはよくあります。
防火扉まわりの日常の見かたは防火設備定期検査にもまとめています。
防火対象物点検を業者に頼むときに見るところ
| 見ること | なぜ |
|---|---|
| 資格の種類 | 防火対象物点検資格者であること |
| 事前に書類を見てくれるか | 当日に不備が出ると是正が長引く |
| 報告書の提出まで含むか | 提出は管理権原者の義務。代行の有無を契約で確認 |
| 是正の助言があるか | 不適合の直し方まで示されるか |
| 消防設備点検と同じ業者か | 書類の受け渡しが1回で済む |
「事前に書類を見てくれるか」を聞いておくと、当日の指摘が減ります。消防計画の届出印や訓練の記録は、点検の場ですぐには用意できません。
見積りの揃え方
金額だけで比べると後で差額が出ます。依頼のときに次を先に伝えます。
- 建物の用途・延べ面積・階数・収容人員(分かる範囲で)
- テナントの数と、管理権原者の区分
- 報告書の提出まで含むかどうか
- 特例認定の申請を代行してもらうかどうか
4つ目を伝えていないと、認定の申請だけ別料金になることがあります。
よくある質問
防火対象物点検と消防設備点検は両方必要ですか
対象になる建物では、両方が必要とされています。根拠となる条文が別で、点検する人の資格も別です。消防設備点検をしているから防火対象物点検が要らない、ということはありません。
防火対象物点検は1年に1回ですか
1年に1回とされています。ただし特例認定を受けている期間は免除されます。認定は3年で効力を失うため、認定が切れる時期を一覧で管理しておくのが安全です。管理のしかたは建物の法定点検一覧にまとめています。
自分の建物が対象かどうか分かりません
収容人員の算定と、階段が屋内1系統かどうかの判定が必要になります。図面を持って所轄の消防署に相談するのがいちばん早い方法です。テナントが入れ替わって用途が変わると、対象になったり外れたりすることがあります。
点検で不備が出たらどうなりますか
是正して、改めて報告することになります。是正できるものは点検の前に直しておくのが実務です。避難経路に置かれた物品や、防炎の表示がないカーテンは、当日までに片づけたり交換したりできます。
テナントが自分の区画だけ点検を受けることはありますか
管理権原が分かれている建物では、それぞれの管理権原者が自分の範囲について点検を受け、報告する形になります。共用部はオーナー側、専有部はテナント側という分け方です。建物全体で1回だけ受ければよい、という建物ばかりではありません。分担は所轄の消防署に確認しておきます。
防火対象物点検資格者はどこで探しますか
一般には、消防設備点検を委託している業者に資格者がいるかを聞くところから始める施設が多くあります。いない場合は、都道府県の消防設備協会などに相談窓口があります。消防設備点検と同じ業者にまとめると、設備点検の報告書をその場で確認してもらえるぶん手間が減ります。
点検済証は掲示しないといけませんか
基準に適合した場合に掲示できるとされているもので、掲示することで建物の利用者に状態を示せます。掲示には期限があるため、古い表示を貼ったままにしないようにします。
まとめ
防火対象物点検は、建物の管理が基準どおりかを見る点検です。設備が動くかを見る消防設備点検とは、根拠も資格も対象も別で、対象になる建物では両方が必要になります。
対象は、収容人員300人以上の特定防火対象物か、収容人員30人以上300人未満で特定用途が3階以上にあり屋内の階段が1系統しかないもの、とされています。収容人員は従業員数ではないため、自分で数えて判断せず、図面を持って消防署で確認します。
点検で見られるのは、防火管理者の選任、消防計画、訓練、設備点検の報告、避難施設の管理などです。書類を当日にそろえるのではなく、日々の記録がそのまま点検の材料になる形にしておくと、点検は確認だけで終わります。
テナントビルでは、共用部と専有部で管理権原者が分かれます。どこまでが誰の範囲かを契約書で確かめ、統括防火管理者を決めておくと、全体の訓練や届出が空白にならずに済みます。
特例認定を受けると3年間は免除されますが、消防設備点検は免除されません。3年で切れることも含めて、期限を一覧で管理しておくのが安全です。