自家用電気工作物とは?保安規程と主任技術者の選任
目次
自家用電気工作物という言葉は、電気の契約を切り替えたときや、キュービクルを置いたときに初めて聞くことが多いものです。建物の電気が高圧で入ってきた瞬間から、設置者には保安の義務が生まれます。ただしその中身は電気の知識が前提になっていて、施設の担当者から見ると入口が分かりにくい分野です。
この記事では、自家用電気工作物を、どこからが該当するのか、設置者に求められること、保安規程、電気主任技術者の選任、外部委託という選び方の順に整理します。該当するかどうかや手続きは設備の規模で変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所管の産業保安監督部に確認してください。
結論:高圧で受電したら自家用電気工作物になる
電気工作物は、電気事業法の上でいくつかに分かれています。施設の管理で関係するのは、一般用電気工作物と自家用電気工作物の区別です。
| 一般用電気工作物 | 自家用電気工作物 | |
|---|---|---|
| 受電のしかた | 低圧で受電する | 高圧・特別高圧で受電する |
| 例 | 一般の住宅、小規模な店舗 | ビル、工場、商業施設、学校、病院 |
| 保安の責任 | 電力会社の調査などによる | 設置者が自分で保安を確保する |
| 主任技術者 | 不要 | 選任が必要 |
| 保安規程 | 不要 | 定めて届け出る |
いちばん大きな違いは、保安の責任が誰にあるかです。低圧で受電している建物は電力会社の側で調査が行われますが、高圧で受電した建物は、設置者が自分で保安を確保することとされています。
キュービクルがあれば自家用電気工作物
実務での見分け方はかんたんです。敷地内にキュービクル(高圧受電設備)が置かれていれば、その建物は自家用電気工作物です。屋上や駐車場の隅にある、灰色の金属の箱がそれにあたります。
キュービクルの中身と点検はキュービクルの点検にまとめています。
発電設備を持っている場合も該当することがあります。非常用発電機や、屋根に載せた太陽光発電の規模によっては、低圧で受電していても自家用電気工作物として扱われることがあります。
設置者に求められる3つのこと
自家用電気工作物になると、設置者にはおおむね3つのことが求められるとされています。
| 内容 | |
|---|---|
| 1 | 保安規程を定めて、国(産業保安監督部)へ届け出る |
| 2 | 電気主任技術者を選任して、届け出る |
| 3 | 保安規程に従って、工事・維持・運用の保安を確保する |
3が本体です。1と2は、3をやるための仕組みを整えるものだと考えると分かりやすくなります。保安規程が「何をどうやるか」を書いたもので、主任技術者が「それを監督する人」です。
届け出るのは産業保安監督部
提出先は消防署でも市役所でもなく、経済産業省の産業保安監督部です。地域ごとに管轄が分かれています。自分の建物がどこの管轄かは、所在地で決まります。
設備を新しく設置したとき、使用を開始する前までに届け出るのが原則とされています。後から気づいて出す場合も、所管の監督部に相談して手続きを進めます。
保安規程とは何か
保安規程は、その建物の電気設備を、誰が・どういう体制で・どう点検して維持するかを書いたルールです。設置者が自分で定めて届け出ます。
定める内容は、おおむね次のようなものとされています。
| 項目 | 何を書くか |
|---|---|
| 保安の組織 | 誰が総括し、誰が主任技術者か |
| 職務と権限 | 主任技術者の職務。指示に従うこと |
| 教育 | 従業者への保安教育 |
| 点検・検査 | 巡視・点検・測定の内容と頻度 |
| 運転・操作 | 通常の操作と、切替の手順 |
| 災害時の措置 | 事故・停電・地震のときにどうするか |
| 記録 | 何を記録し、どれだけ保存するか |
「点検・検査」の項目が、実務ではいちばん効いてきます。ここに書いた頻度が、その建物で守るべき頻度になります。月次点検を毎月と書けば毎月、隔月と書けば隔月です。
ひな形をそのまま使わない
保安規程は、電気保安協会や委託先が用意したひな形をもとに作ることが多くあります。ひな形は便利ですが、そのまま出すと、自分の建物に無い設備の話が残ります。
- 建物に無い設備の点検頻度が書かれている
- 組織図に存在しない役職が残っている
- 記録の保存場所が実態と違う
保安規程に書いたことは、守ることとされています。実態と合っていないと、事故が起きたときに「規程どおりに運用していなかった」という形になります。委託先と一緒に、自分の建物の設備に合わせて直しておくのが安全です。
変更したら届け出る
体制や設備が変わったときは、保安規程の変更を届け出ることとされています。主任技術者が替わった、委託先が替わった、設備を増設した、といった場面です。変更の届出だけが何年も出ていないというのがよくある形です。
電気主任技術者の選任
電気主任技術者は、電気工作物の工事・維持・運用に関する保安の監督にあたる人です。第一種・第二種・第三種の区分があり、扱える電圧の範囲が違います。
選任のしかたには、おおむね次の形があります。
| 形 | 内容 |
|---|---|
| 自社で選任 | 資格を持つ従業員を選任する |
| 兼任 | 一定の条件のもとで、複数の事業場を1人が受け持つ |
| 外部委託(保安管理業務の委託) | 保安協会や電気管理技術者に委託する |
ビルや商業施設では、外部委託の形をとっている建物が大半です。自社で有資格者を抱えるのは負担が大きく、一定の条件を満たせば委託が認められているためです。
外部委託を選んだときに見るところ
委託は「任せて終わり」にはなりません。設置者の義務が消えるわけではないので、何をどこまで見てもらうかを契約で確かめておきます。
| 見ること | なぜ |
|---|---|
| 月次点検の頻度 | 保安規程に書いた頻度と合っているか |
| 年次点検(停電点検)の有無 | 停電を伴う点検が含まれるか |
| 記録の提出 | 点検のたびに記録をもらえるか |
| 事故のときの対応 | 夜間・休日の連絡先と到着の目安 |
| 保安規程の見直し | 設備を変えたときに直してもらえるか |
「記録の提出」を確かめておくのが大事なところです。点検してもらっても記録が手元に無ければ、保安規程に書いた点検をやっている証拠が残りません。
点検の周期と中身
保安規程に書かれた頻度で、巡視・点検・測定を行うことになります。一般には次のような形をとる建物が多くあります。
| 点検 | 頻度の例 | 停電 |
|---|---|---|
| 日常巡視 | 毎日または週1回 | なし |
| 月次点検 | 月1回または隔月 | なし |
| 年次点検 | 年1回または数年に1回 | あり(停電させる) |
年次点検は建物を停電させて行うため、段取りが要ります。テナントや入居者への周知、サーバーやエレベーターの扱い、冷蔵・冷凍設備の中身。どれも当日になってからでは間に合いません。
停電を伴う年次点検の段取り
一般には、次の順で準備している建物が多くあります。
- 1か月以上前に日程を決め、テナントへ文書で知らせる
- 停電する時間帯と、復電の予定時刻を明示する
- サーバー・冷蔵庫・水槽など、止められない設備を洗い出す
- 必要なら仮設の電源を手配する
- エレベーターを止める時間と、その間の移動手段を決める
- 当日、復電後に各設備が正常に立ち上がったかを確認する
最後の「復電後の確認」が抜けやすいところです。停電から復帰しない設備があっても、翌朝まで誰も気づかないことがあります。復電の直後に館内を1周する手順まで含めて計画しておきます。
巡回の組み方は設備点検のやり方にまとめています。
電気事故が起きたときの報告
自家用電気工作物では、一定の電気事故が起きたときに国へ報告することとされています。これを知らないまま、社内の処理だけで終わらせてしまう建物があります。
一般には、次のようなものが報告の対象とされています。
- 感電などによる死傷の事故
- 電気工作物が原因の火災
- 他の物件への損傷
- 一定規模以上の波及事故(自分の設備の故障で、周りの地域を停電させてしまうもの)
波及事故は、施設の管理でいちばん重い事故です。キュービクルの中の機器が壊れて地絡を起こすと、電力会社側の遮断器が落ちて、その系統につながっている周辺の建物まで停電します。近隣の店舗や工場が止まるため、影響が大きくなります。
波及事故を防ぐのが点検の目的
月次点検や年次点検は、突き詰めれば波及事故を起こさないために行われています。絶縁が落ちていないか、機器に劣化が出ていないかを定期的に見ることで、壊れる前に交換できます。
| 見ているもの | 何を防ぐか |
|---|---|
| 絶縁抵抗の測定 | 地絡による波及事故 |
| 機器の外観・温度 | 過熱による焼損 |
| 保護装置の動作 | 事故のときに正しく切れるか |
| 接地の状態 | 感電と誤動作 |
「点検して異常が無かった」は、何も起きなかったという意味ではありません。壊れる前に見つけて直した結果として、何も起きていない状態が続いています。
報告の手順を決めておく
事故が起きてから調べるのでは間に合いません。誰が、どこへ、いつまでに報告するかを保安規程に書き、連絡先を電気室と管理室に貼っておきます。夜間や休日に起きたときの初動も、同じ紙に1行で書いておきます。
よくある質問
うちの建物が自家用電気工作物かどうか分かりません
敷地内にキュービクルがあれば、高圧で受電しているので該当します。判断がつかない場合は、電気の請求書の契約種別を見るか、所管の産業保安監督部に確認します。太陽光発電や非常用発電機の規模によっては、低圧受電でも該当することがあります。
太陽光発電を屋根に載せたら何か変わりますか
規模によっては、発電設備として自家用電気工作物に該当することがあります。既に高圧で受電している建物なら、保安規程に発電設備の点検を加える必要があるかどうかを委託先に確認します。低圧で受電している建物でも、一定の規模を超えると該当することがあるため、設置の計画段階で所管の産業保安監督部に確認しておくと手戻りがありません。
保安規程はひな形をそのまま使ってよいですか
出すこと自体はできますが、書いた内容は守ることとされています。建物に無い設備の点検頻度や、存在しない役職が残っていると、実態と合わなくなります。委託先と一緒に、自分の建物に合わせて直しておきます。
電気主任技術者と電気工事士は違いますか
別の資格です。電気工事士は工事を行う人、電気主任技術者は保安の監督にあたる人です。工事をしてもらう相手と、保安を委託する相手が別の会社になっていることもよくあります。選任の届出が必要なのは電気主任技術者のほうなので、そこだけは取り違えないようにします。
主任技術者は必ず社内に置かないといけませんか
一定の条件を満たす場合、保安協会や電気管理技術者への外部委託が認められています。ビルや商業施設では、これを選んでいる建物が大半です。委託しても、設置者としての義務が無くなるわけではありません。
保安規程に書く点検の頻度は、どう決めればよいですか
設備の規模と、建物の使われ方に合わせて決めます。委託先が示す標準の頻度を出発点にして、止められない設備がある、屋外で環境が厳しい、といった事情を加味します。書いた頻度は守ることとされているので、実行できない頻度を書かないことが大事です。実態に合わなくなったら、変更の届出を出して直します。
年次点検のために停電させるのが難しいのですが
止められない設備がある建物では、仮設の電源を用意する、区画を分けて日を変える、といった方法をとることがあります。委託先に建物の事情を伝えて、実施のしかたを相談するのが早道です。数年に1回の周期が認められる場合もあります。
担当者が替わるときに引き継ぐものはありますか
電気の分野は、担当が替わると経緯が消えやすいところです。次の5つを1つのファイルにまとめておくと、引き継ぎが1回で済みます。
- 保安規程の最新版と、届出の控え
- 電気主任技術者の選任届の控えと、委託契約書
- 単線結線図(設備の系統が1枚で分かる図)
- 直近3年ぶんの点検記録
- 事故・停電のときの連絡先と初動の手順
単線結線図が見当たらない建物が実際にあります。委託先が持っていることが多いので、写しをもらって手元にも置いておきます。設備を増設したときは、図の更新まで工事の範囲に入れておきます。
建物を買ったり借りたりしたときは何をしますか
設置者が替わると、保安規程や主任技術者の届出も見直しが要ることがあります。前の所有者の名義のまま残っていることがあるため、引き渡しの段階で届出の控えを受け取り、所管の産業保安監督部に手続きを確認します。
記録はどれくらい残しますか
保安規程に書いた期間、保存することになります。自分の規程に何年と書いてあるかを確認するのが先です。書いていなければ、委託先と相談して決めて追記します。
まとめ
自家用電気工作物は、高圧で受電している建物が該当します。実務では、敷地内にキュービクルがあるかどうかで見分けられます。低圧の建物と違い、保安を確保する責任は設置者の側にあります。
求められるのは3つです。保安規程を定めて届け出ること、電気主任技術者を選任して届け出ること、そして規程に従って保安を確保すること。本体は3つ目で、前の2つはその仕組みを整えるものです。
保安規程は、ひな形をそのまま出さないのが大事なところです。書いた頻度が、その建物で守るべき頻度になります。実態と合っていないと、事故のときに規程どおりでなかったという形になります。
主任技術者は外部委託が選べます。ただし委託しても設置者の義務は残ります。月次の頻度、年次点検の有無、記録の提出、事故のときの連絡。この4つは契約で確かめておきます。
点検が守っているのは、最終的には波及事故です。自分の設備の故障で周りの地域まで停電させると、影響が近隣の店舗や工場に及びます。絶縁の測定や機器の温度を定期的に見ているのは、壊れる前に交換するためです。事故が起きたときの報告先と初動は、電気室と管理室に貼っておきます。