電気設備の年次点検|停電の日の段取りと連絡
目次
年に1回、建物を止めて行う電気設備の点検。技術者にとっては数時間の作業ですが、建物の担当者にとっては1か月前から始まる仕事です。止まる設備の洗い出し、テナントへの連絡、復電の確認。ここを段取りできるかで、当日の慌ただしさが変わります。
この記事では、電気設備の年次点検を、当日に行われること、1か月前からの段取り、止まる設備の洗い出し、復電の手順、終わったあとの記録の順に整理します。点検の周期と内容は保安規程と設備の規模で変わります。自分の設備に何が適用されるかは、保安管理の委託先と所轄の産業保安監督部に確認してください。
結論:点検そのものより、止めることと戻すことが仕事になる
年次点検は、受電を止めて行う点検です。月次点検では測れない部分を、停電させて確かめます。
建物の担当者の仕事は3つに分かれます。
1つ目は、止める前の準備です。止まる設備を洗い出し、テナントに知らせ、対応してもらう。ここに時間の9割がかかります。
2つ目は、当日の立ち会いです。技術者の作業そのものは、こちらの仕事ではありません。
3つ目は、戻したあとの確認です。設備が正常に動いているか。ここで見落とすと、翌朝に問題が出ます。
1つ目と3つ目が、建物の担当者にしかできない仕事です。技術者は設備の専門家であって、この建物のどのテナントが何を使っているかは知りません。
当日に行われること
停電中に行われるのは、月次点検ではできないことです。
主なものは4つです。
1つ目は、絶縁抵抗の測定です。電気が漏れていないかを、停電した状態で測ります。
2つ目は、保護装置の試験です。過電流や地絡を検知して遮断する装置が、正しく働くか。
3つ目は、清掃と増し締めです。内部のほこりを取り、端子のゆるみを締めます。ゆるみは発熱と事故の原因になります。
4つ目は、非常用発電機の試験です。発電機がある建物では、切り替わるかを確かめます。
3つ目は、地味ですが効きます。端子は熱の伸び縮みでゆるみます。年に1回締め直すことが、火災を防いでいます。
1か月前からの段取り
当日の混乱は、準備の不足から起きます。逆算します。
段取りは5段です。
1つ目は、日程を決めることです。1か月以上前。休館日か、利用のいちばん少ない日。
2つ目は、止まる設備を洗い出すことです。建物の側でしかできない作業です。
3つ目は、テナントに知らせることです。2週間前に文書で、前日にもう1回。
4つ目は、対応を確かめることです。冷蔵と冷凍、サーバー、医療機器。個別に話します。
5つ目は、当日の手順を決めることです。誰がどこにいるか、復電の確認を誰がするか。
3つ目は2回やってください。2週間前の文書は読まれないことがあります。前日にもう1回知らせるだけで、当日の苦情が大きく減ります。
止まる設備を洗い出す
いちばん大事で、いちばん抜けやすい作業です。建物を1周して、電気で動くものを書き出します。
書き出すのは5つです。
1つ目は、共用の設備です。エレベーター、空調、給水ポンプ、自動ドア、換気扇、照明。
2つ目は、防災の設備です。自動火災報知設備、防火シャッター、非常用照明。非常用照明はバッテリーで点きますが、時間に限りがあります。
3つ目は、テナントの設備です。冷蔵と冷凍、レジ、サーバー、電話、医療機器。
4つ目は、見落としやすいものです。電気錠、機械式の駐車場、看板、時計、券売機、自動販売機。
5つ目は、通信です。インターネット回線の機器、防犯カメラ、入退室の管理。
4つ目がいちばん抜けます。電気錠が開かなくなって人が入れない、機械式の駐車場から車を出せない。去年の当日に困ったことを書き残しておくと、翌年の洗い出しが速くなります。
テナントへの伝え方
「停電します」だけでは伝わりません。何が止まるかを書きます。
書くのは5つです。
1つ目は、日付と時間帯です。開始と終了の予定時刻。
2つ目は、止まる設備の一覧です。エレベーター、空調、水、トイレ、照明。トイレが使えるかどうかがいちばん聞かれます。
3つ目は、備えてほしいことです。冷蔵庫の中身、パソコンの電源、貴重品。
4つ目は、当日の連絡先です。
5つ目は、予定が延びた場合の連絡の仕方です。
2つ目を一覧にして渡すのが、いちばん効きます。受け取った側が自分で判断できます。「電気が止まります」とだけ書くと、全員が個別に問い合わせてきます。
復電のときに確かめること
戻したあとが、いちばん見落としの多い時間帯です。
確かめるのは5つです。
1つ目は、防災の設備です。自動火災報知設備の受信機に異常が出ていないか。誤作動で鳴ることがあります。
2つ目は、空調と換気です。運転が戻っているか。手動で起動し直す必要がある機器があります。
3つ目は、給水です。ポンプが動き、水が出るか。受水槽の水位も確かめます。
4つ目は、時刻の設定です。タイマー、時計、券売機。停電で時刻がずれる機器があります。
5つ目は、テナントの状況です。1周して、困っているところが無いか聞きます。
4つ目が翌日に響きます。空調のタイマーがずれたまま気づかず、翌朝に暖房が入らないという形です。復電の日に1周することで、ほとんどが防げます。
停電できない設備への備え
止められない設備がある建物では、別の手当てが要ります。
備え方は4つです。
1つ目は、無停電電源装置です。サーバーや通信の機器に使います。停電の時間に足りる容量かを確かめます。
2つ目は、仮設の発電機です。冷蔵や冷凍のために借りることがあります。
3つ目は、事前に移すことです。冷蔵の在庫を減らす、他の場所へ移す。
4つ目は、時間帯をずらすことです。その設備だけ先に切り替える、あとから止める。
2つ目は費用がかかります。テナントが必要とする場合、費用をどちらが持つかを先に決めてください。当日に話すことになると、感情の問題になります。
記録として残しておく
年次点検は年に1回です。次にやるのは1年後なので、記録が無いと同じ苦労を繰り返します。
残すのは5つです。
1つ目は、点検の報告書です。測定の値と指摘。
2つ目は、止まる設備の一覧です。当日に追加したものを書き足します。
3つ目は、テナントに配った文書です。翌年はこれを直すだけで済みます。
4つ目は、当日に困ったことです。これがいちばん役に立ちます。
5つ目は、復電後の確認の一覧です。
4つ目を3行でよいので残してください。「電気錠が開かず、非常用の鍵を探した」「駐車場から車が出せず、20分止まった」。翌年の準備が、まったく違うものになります。
当日の役割を決める
停電の日は、複数の場所で同時に何かが起きます。1人で回ろうとすると止まります。役割を分けます。
分けるのは4つです。
1つ目は、技術者に付く人です。電気室で作業を見て、質問に答えます。建物の構成を知っている人が向いています。
2つ目は、館内を回る人です。エレベーターに人が残っていないか、テナントが困っていないか。停電の前と、復電の後に1周します。
3つ目は、連絡の窓口になる人です。問い合わせを受ける電話番号を1つに決めて、その人が受けます。窓口が複数あると、答えがばらつきます。
4つ目は、判断する人です。予定より延びたとき、想定外のことが起きたとき。その場で決める人を1人決めておきます。
人数が足りない建物では、1人が2つを兼ねて構いません。大事なのは、誰が何をするかが決まっていることです。当日に決めようとすると、いちばん忙しい時間に打ち合わせをすることになります。
延びたときの備え
作業が予定より延びることがあります。延びる前提で備えておきます。
備えるのは4つです。
1つ目は、連絡の手段です。停電中は館内放送が使えません。携帯電話の番号を配っておくか、拡声器を用意します。
2つ目は、伝える相手の順番です。テナント、来館者、社内。誰から伝えるかを決めておきます。
3つ目は、延びたときの目安です。「30分延びたら連絡する」という基準を先に決めます。
4つ目は、明るさです。非常用照明は途中で消えます。懐中電灯を人数分用意してください。
1つ目を忘れる建物が多くあります。停電しているので、いつも使っている放送も内線も使えません。紙に番号を書いて配るだけで足ります。
発電機がある建物での進め方
非常用発電機がある建物では、年次点検と一緒に発電機の試験を行うことがあります。
決めるのは4つです。
1つ目は、負荷をかけて試験するかです。実際に電気を使わせて運転を確かめる方法と、模擬の負荷装置を使う方法があります。
2つ目は、燃料の量です。試験で燃料を使います。残量を先に確かめてください。
3つ目は、排気と騒音です。運転中は排気と音が出ます。近隣と、換気の経路を確かめます。
4つ目は、試験のあとの復帰です。切り替えのスイッチが自動に戻っているか。手動のままだと、次の停電で動きません。
4つ目は、必ず確かめてください。切り替えを手動にして試験し、戻し忘れる形が実際に起きます。戻したことを記録に書いて、名前を残すところまでを手順にしてください。
まとめ
電気設備の年次点検は、点検そのものより、止めることと戻すことが建物の担当者の仕事です。
- 停電中に行うのは、絶縁測定、保護装置の試験、清掃と増し締め、発電機の試験
- 段取りは1か月前から。止まる設備の洗い出しは建物の側にしかできない
- テナントには、止まる設備の一覧を渡す。2週間前と前日の2回知らせる
- 復電後は、防災・空調・給水・時刻・テナントの5つを確かめる
- 当日に困ったことを3行残す。翌年の準備が変わる
点検の周期と内容は保安規程と設備の規模で変わります。自分の設備に何が適用されるかは、保安管理の委託先と所轄の産業保安監督部に確認してください。
よくある質問
Q. 年次点検は必ず停電しますか。 A. 停電させて行うのが基本です。ただし、停電しない方法で行える場合があります。設備の構成によって変わるので、保安管理の委託先に相談してください。
Q. 停電の時間はどのくらいですか。 A. 設備の規模によります。半日から1日が目安ですが、委託先に確かめてください。テナントへの連絡には正確な時間帯が要ります。延びる可能性も含めて伝えます。
Q. テナントが停電に協力してくれません。 A. 何が止まるかを一覧で示してください。「電気が止まる」だけでは、自分に関係あるか分かりません。それでも難しい場合は、時間帯をずらせないか委託先に相談します。
Q. 冷蔵庫の中身はどうしますか。 A. 前日に在庫を減らす、クーラーボックスに移す、仮設の発電機を借りる。どれを選ぶかはテナントが決めます。選択肢を示して、早めに相談してください。
Q. 非常用照明は停電中も点きますか。 A. バッテリーで点きますが、点いていられる時間には限りがあります。半日の停電では途中で消えます。作業する場所には、別に照明を用意してください。
Q. 復電したあと、何を確かめますか。 A. 防災の設備、空調と換気、給水、時刻の設定、テナントの状況の5つです。建物を1周してください。時刻のずれは翌日に問題として出ます。
Q. 停電中にエレベーターに人が閉じ込められませんか。 A. 止める前に、かごの中に人がいないことを確かめます。各階の扉に張り紙をして、使用を止める時間を設けてください。保守会社に立ち会ってもらう建物もあります。
Q. 点検で指摘が出たら、いつ直しますか。 A. 委託先に「いつまでに直す必要があるか」を聞いてください。次の年次点検までなのか、すぐなのかで予算の扱いが変わります。緊急性を言葉で確かめてください。
Q. 増し締めは毎年必要ですか。 A. 端子は熱の伸び縮みでゆるみます。年に1回締め直すことが、発熱と火災を防いでいます。作業の範囲に含まれているかを、委託先に確かめてください。
Q. 日程はいつ決めますか。 A. 1か月以上前です。休館日や利用の少ない日は、委託先の予約も集中します。年度の初めに決めて、テナントにも早めに知らせてください。
Q. 当日、建物の担当者は何をしますか。 A. 立ち会いと、テナントへの対応です。作業そのものは技術者が行います。止める前の周知と、戻したあとの確認が、担当者にしかできない仕事です。
Q. 去年の記録が残っていません。 A. 委託先が報告書を持っています。写しをもらってください。止まる設備の一覧と、当日に困ったことは建物の側でしか作れないので、今年から残し始めてください。
Q. 停電中の連絡はどうしますか。 A. 館内放送も内線も使えません。携帯電話の番号を紙に書いて、テナントに配ってください。拡声器を用意している建物もあります。当日の窓口は1人に絞ります。
Q. 作業が延びたら、どう伝えますか。 A. 「30分延びたら連絡する」という基準を先に決めてください。黙って待たせるのがいちばん苦情になります。遅れの見込みと、次に連絡する時刻を一緒に伝えます。
Q. 非常用発電機の試験は毎年やりますか。 A. 設備の種類と根拠になる法令によって扱いが違います。消防用設備等としての点検と、電気設備の側の点検が重なることがあります。保守業者と所轄の消防署に確かめてください。
Q. 停電作業の日に、警備はどうしますか。 A. 電気錠と防犯カメラが止まります。出入口を人で見るか、その時間だけ施錠して立入を止めるかを決めてください。警備会社に契約している建物では、事前に連絡が必要です。