グリストラップの清掃|3つの層と自分でやる手順
目次
グリストラップの清掃は、飲食のテナントが入っている建物で必ず出てくる仕事です。ところがどこまでを毎日やり、どこからを業者に頼むのかがあいまいなまま、臭いや虫が出てから慌てるという形になりがちです。
この記事では、グリストラップの清掃を、3つの層の役割、頻度の分け方、自分でやる手順、起きている事故、テナントとの分担の順に整理します。清掃の頻度や届出の要否は自治体の条例・要綱で変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所在地の下水道担当課に確認してください。
結論:グリストラップは3つの層で役割が違う
グリストラップは、厨房の排水から油と食品くずを分けて止めるための装置です。床に埋まっている金属の蓋を開けると、中がいくつかの槽に分かれています。
清掃の話が混乱するのは、溜まるものが層ごとに違い、溜まる速さも違うからです。
| 層 | 溜まるもの | 手入れの頻度の目安 |
|---|---|---|
| バスケット(かご) | 食品くず・生ごみ | 毎日 |
| 水面の油(スカム) | 固まった油脂 | 週1回程度 |
| 槽の底の汚泥 | 沈んだ細かい残さ | 月1回程度 |
| 槽全体 | 上の3つと配管 | 定期的に業者へ |
「グリストラップの清掃」と一口に言っても、毎日の作業と年に数回の作業が混ざっています。この4段階に分けて、それぞれ誰がやるかを決めるところから始めます。
いちばん効くのはバスケット
毎日のバスケットの清掃が、いちばん効きます。ここに食品くずが溜まったままだと、水に浸かって分解が進み、臭いの元になります。油とも混ざって、下の層の汚れを早めます。
逆に、バスケットを毎日空けている厨房では、業者を呼ぶ間隔を伸ばせることがあります。日々の手間と、年間の費用は交換できる関係にあります。
グリストラップは何のためにあるか
グリストラップは、油を下水道に流さないために設置されています。下水道法や各自治体の条例で、排水に含まれる油分などの基準が定められており、それを超える水を流せないこととされています。
設置そのものは、多くの自治体で飲食店の設計の段階で求められます。建物を管理する側から見ると、既にあるものをどう維持するかが仕事になります。
清掃を怠ると何が起きるか
放置したときに出てくる症状は、グリストラップが原因だとすぐには結びつかないものばかりです。
| 症状 | 起きる場所 |
|---|---|
| 下水のような臭い | 厨房、その階の共用部 |
| 小さな虫(ちょうばえ)が出る | 厨房、排水溝の周り |
| 排水が流れにくい・逆流する | 厨房のシンク、床の排水口 |
| 排水管が詰まる | 建物の配管全体 |
| 排水槽の汚泥が早く溜まる | 地下の排水槽 |
排水槽の清掃の間隔が短くなってきたら、グリストラップの管理を疑うのが実務の順番です。上流で止められなかった油が、そのまま下流に溜まっています。排水槽のほうは排水槽の清掃にまとめています。
ちょうばえの発生と防除はねずみ等の防除にまとめています。
自分でやる手順
毎日・毎週の手入れは、道具をそろえれば自分たちでできます。特別な資格は要りません。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 手袋・長靴・ゴーグルを着ける。換気する |
| 2 | 蓋を開ける(重いので必ず取っ手を使う) |
| 3 | バスケットを引き上げ、中身をごみ袋へ |
| 4 | 水面に浮いた油をすくい取る(週1回程度) |
| 5 | 底の汚泥をすくい取る(月1回程度) |
| 6 | バスケットと蓋を洗って戻す |
| 7 | 記録に日付と作業内容を書く |
3までなら5分ほどで終わります。毎日の作業として閉店後の手順に組み込むと、続きます。
やってはいけないこと
| やりがちなこと | なぜ問題か |
|---|---|
| 油を溶かす洗剤を大量に流す | 溶けた油が下流で再び固まる |
| 熱湯を流して流し込む | 同じく、配管の途中で冷えて固まる |
| バスケットの中身を排水口へ流す | グリストラップの意味が無くなる |
| 蓋を開けたまま離れる | 転落の危険。臭気も広がる |
| 汚泥を下水に流す | 条例に触れることがある |
「流して片づける」は、その場は片づいたように見えて、下流に移しているだけです。すくい取って燃えるごみなどとして処理する形にします。処理のしかたは自治体で決まりが違うので、下水道担当課に確認します。
事故が起きている
グリストラップの清掃では、実際に人が亡くなる事故が起きています。建物を管理する側として、ここは知っておく必要があります。
| 原因 | どういう状況か |
|---|---|
| 硫化水素などのガス | 汚泥が腐敗して発生する。深い槽に顔を入れると危ない |
| 酸素の欠乏 | 密閉に近い場所、地下の槽 |
| 転落 | 蓋を開けたまま作業し、足を踏み外す |
| 蓋による挟まれ | 重い金属の蓋。手を挟む、足に落とす |
| 感染・けが | 割れた食器やガラス片が混ざっている |
深い槽や、地下にあるもの、臭いが強いものは、自分たちで中に入らないのが原則です。換気とガスの測定をしたうえで、決められた手順で作業する必要があります。入るのは業者の仕事と割り切ります。
作業を1人でやらせない
深い槽や地下のグリストラップでは、倒れたときに気づく人がいるかどうかが生死を分けます。ガスは無色で、気づいたときには動けなくなることがあります。
一般には、次のようにしている建物があります。
- 深い槽の作業は、必ず2人以上で行う
- 1人が槽の外で見ている(中を見る係をやめない)
- 異変があったら自分は入らずに人を呼ぶ(助けに入った人が二次被害に遭う)
- 換気を先に始め、作業中も続ける
「助けに入って一緒に倒れる」が、この種の事故でいちばん多い形とされています。手順の紙に、救助に入らないことを1行書いておきます。
開けたら囲う
蓋を開けている間は、その場を離れない。やむを得ず離れるときは、コーンや柵で囲うか、蓋を戻します。厨房は人の出入りが多く、開いた穴は見えにくい位置にあります。
「5分だから」で開けたままにした穴に、別の人が落ちるというのが、いちばんよくある形です。
業者に頼む範囲
毎日・毎週の手入れを自分たちでやっていても、槽全体の清掃は定期的に業者へ頼むのが一般的です。
| 業者がやること | なぜ自分たちでは難しいか |
|---|---|
| 汚泥の抜き取り | 量が多い。バキューム車が要る |
| 槽内と配管の洗浄 | 高圧洗浄の道具が要る |
| 抜いたものの処理 | 廃棄物として適正に処理する必要がある |
| 配管の詰まりの解消 | 専用の道具と経験が要る |
見積りを比べるとき
金額だけ並べても比べられません。次を同じ条件にしてから比べます。
- グリストラップの数と、それぞれのおおよその容量
- 年間の回数
- 抜いた汚泥の処理費用が含まれるか、量による従量か
- 配管の洗浄まで含むか
- 作業できる時間帯(営業時間中が難しいか)
3つ目が金額の差になりやすいところです。汚泥の量は厨房の使われ方で変わるので、従量の見積りだと前回より増えることがあります。前回の実績量を伝えて見積りを取ると、比べやすい金額が出てきます。
処理の記録(マニフェストなど)が出てくるかも確かめておきます。建物として保管しておく書類です。
テナントとの分担を決めておく
グリストラップは専有部の厨房の中にあることが多いため、日常の手入れはテナント側の仕事になるのが一般的です。ところが契約に書かれていない建物があります。
決めておくのは4つです。
| 決めること | よくある形 |
|---|---|
| 日常の手入れ | バスケット・油のすくい取りはテナント |
| 定期の汲み取り | 建物側でまとめるか、店舗ごとか |
| 費用の負担 | 実際の使用量に応じるか、一律か |
| 退去のときの清掃 | 原状回復の範囲に入れるか |
4つ目が抜けていると、退去後に蓋を開けて驚くことになります。新しいテナントが入る前に清掃が必要になり、その費用の出どころで揉めます。入居のときに1行入れておくと後が楽です。
伝え方
否定から入ると協力が得られにくくなります。一般的な形を先に示す言い方が使いやすくなります。
> 一般には、閉店後にバスケットの中身を取り出して、週に1回は水面の油をすくっている店舗が多くあります。
あわせて、建物としての状況を共有するのも有効です。「この系統の排水槽の汚泥が前回より早く溜まっている」という事実は、注意より説得力があります。
使う道具をそろえておく
清掃が続かない理由の多くは、道具がその場に無いことです。厨房の一角に一式まとめて置いておくと、閉店後の作業に組み込めます。
| 道具 | 用途 |
|---|---|
| ゴム手袋・長靴 | 直接触らない。滑らない |
| 蓋を開ける取っ手(フック) | 重い蓋を素手で持ち上げない |
| 油をすくうネット・ひしゃく | 水面のスカムを取る |
| スコップ・ちりとり | 底の汚泥を取る |
| ふた付きのバケツ | 取ったものをその場で密閉する |
| ごみ袋(厚手) | 破れにくいもの |
| ブラシ | バスケットと蓋を洗う |
ふた付きのバケツが効きます。取ったものを開けたまま運ぶと、においが厨房と共用部に広がります。その場で閉じてしまえば、動線のどこにも残りません。
油を吸わせる資材もある
水面の油を、吸着材で吸わせて取る方法もあります。すくうより手が汚れにくく、時間も短くなります。メーカーが厨房向けの製品を出しているので、量と交換の頻度で費用を比べます。
ただし、吸わせたものは捨てる必要があります。「入れておけば消える」という道具ではありません。交換の周期も手順に入れておきます。
記録の残し方
グリストラップの清掃は、記録に残しておくと交渉と予算の材料になります。
| 残すもの | 内容 |
|---|---|
| 日常の手入れ | 日付、担当者、やったこと(チェック式でよい) |
| 業者の清掃 | 実施日、作業内容、抜いた量 |
| 廃棄物の処理 | 処理の記録(マニフェストなど) |
| 写真 | 清掃の前後。状態の変化が分かる |
| 次回の予定日 | 周期から逆算した日付 |
写真を1枚残しておくと、次の清掃のときに比べられます。汚れ方が前回より早いなら、使い方が変わったか、日常の手入れが落ちている可能性があります。
日常の点検表の作り方は設備点検のやり方にまとめています。
よくある質問
グリストラップの清掃は義務ですか
下水道法や各自治体の条例で、排水に含まれる油分などの基準が定められており、それを超える水を流せないこととされています。清掃そのものの頻度を条例で定めている自治体もあります。所在地の下水道担当課で確認します。
深い槽の作業で気を付けることはありますか
1人でやらせないことです。ガスは無色で、気づいたときには動けなくなることがあります。槽の外に見ている人を置き、異変があっても自分は入らずに人を呼びます。助けに入った人が一緒に倒れるのが、この種の事故でいちばん多い形とされています。深い槽や地下のものは、業者に頼むのが原則です。
グリストラップの清掃は自分でできますか
バスケットの中身を取り出す、水面の油をすくう、底の汚泥をすくうところまでは、道具をそろえれば自分たちでできます。槽の中に人が入る作業と、汚泥の抜き取りは業者に頼むのが原則です。ガスと酸素欠乏の危険があります。
どのくらいの頻度で清掃しますか
一般には、バスケットが毎日、水面の油が週1回程度、底の汚泥が月1回程度、槽全体の清掃を定期的に業者へ、という形をとる店舗が多くあります。厨房の使われ方で変わるので、実際の汚れ方に合わせて調整します。
油を溶かす洗剤を流してもよいですか
溶けた油は、配管の途中で冷えて再び固まります。下流に問題を移すことになるため、すくい取って処理するのが基本です。微生物を使う製剤などを使う場合も、業者や自治体に相談してから決めます。
取り出した油や汚泥はどう捨てますか
下水に流し戻さないのが大前提です。そのうえで、事業から出たものの扱いは自治体と量で変わります。少量を店舗の一般廃棄物として出せる地域もあれば、産業廃棄物として処理するよう求められる地域もあります。所在地の下水道担当課と廃棄物担当課に、最初に1回聞いておくと、以後は迷いません。
業者に頼む間隔はどう決めますか
決まった年数があるわけではなく、実際の汚れ方で決まります。開けたときに油の層がどれだけ厚いか、汚泥が底からどれだけ立ち上がっているかを、写真で残しておくと判断できます。日常の手入れが続いている厨房では間隔を伸ばせますし、揚げ物が多い店舗では逆に短くなります。
臭いが取れません
槽の汚泥が残っているか、配管の中に付着している可能性があります。すくい取るだけでは届かない部分なので、高圧洗浄を含む清掃を業者に依頼します。排水槽まで汚泥が流れている場合もあるので、そちらの清掃時期も確かめます。
まとめ
グリストラップの清掃は、層ごとに作業と頻度が違います。バスケットが毎日、水面の油が週1回程度、底の汚泥が月1回程度、槽全体は定期的に業者へ。この4段階に分けて、それぞれ誰がやるかを決めるところから始めます。
いちばん効くのは毎日のバスケットです。ここを空けている厨房では、業者を呼ぶ間隔を伸ばせることがあります。日々の手間と年間の費用は交換できる関係にあります。
やってはいけないのは「流して片づける」ことです。洗剤で溶かしても熱湯で流しても、配管の途中で冷えて再び固まります。すくい取って処理する形にします。
専有部にあることが多いので、日常の手入れ・定期の汲み取り・費用の負担・退去のときの清掃の4つを、入居のときに決めておきます。特に4つ目が抜けていると、退去後に開けて驚くことになります。
そして、清掃では実際に人が亡くなる事故が起きています。ガス、酸素の欠乏、転落、重い蓋。深い槽や地下のものは自分たちで中に入らず、開けている間はその場を離れない。深い槽の作業は1人でやらせず、異変があっても助けに入らずに人を呼ぶ。この3つだけは、手順の紙に必ず書いておきます。