建物の衛生管理実務2026.09.16 公開ES-27

グリストラップの清掃|3つの層と自分でやる手順

目次

グリストラップの清掃は、飲食のテナントが入っている建物で必ず出てくる仕事です。ところがどこまでを毎日やり、どこからを業者に頼むのかがあいまいなまま、臭いや虫が出てから慌てるという形になりがちです。

この記事では、グリストラップの清掃を、3つの層の役割頻度の分け方自分でやる手順起きている事故テナントとの分担の順に整理します。清掃の頻度や届出の要否は自治体の条例・要綱で変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所在地の下水道担当課に確認してください。

清掃の記録や点検表の様式そのものを探している場合は、点検板に施設向けの様式がそろっています。

結論:グリストラップは3つの層で役割が違う

グリストラップは、厨房の排水から油と食品くずを分けて止めるための装置です。床に埋まっている金属の蓋を開けると、中がいくつかの槽に分かれています。

清掃の話が混乱するのは、溜まるものが層ごとに違い、溜まる速さも違うからです。

溜まるもの手入れの頻度の目安
バスケット(かご)食品くず・生ごみ毎日
水面の油(スカム)固まった油脂週1回程度
槽の底の汚泥沈んだ細かい残さ月1回程度
槽全体上の3つと配管定期的に業者へ

「グリストラップの清掃」と一口に言っても、毎日の作業と年に数回の作業が混ざっています。この4段階に分けて、それぞれ誰がやるかを決めるところから始めます。

いちばん効くのはバスケット

毎日のバスケットの清掃が、いちばん効きます。ここに食品くずが溜まったままだと、水に浸かって分解が進み、臭いの元になります。油とも混ざって、下の層の汚れを早めます。

逆に、バスケットを毎日空けている厨房では、業者を呼ぶ間隔を伸ばせることがあります。日々の手間と、年間の費用は交換できる関係にあります。

3つの層で作業が違うバスケット食品くず。毎日油(スカム)週1回すくう汚泥月1回すくう
グリストラップは3つの層に分かれている

グリストラップは何のためにあるか

グリストラップは、油を下水道に流さないために設置されています。下水道法や各自治体の条例で、排水に含まれる油分などの基準が定められており、それを超える水を流せないこととされています。

設置そのものは、多くの自治体で飲食店の設計の段階で求められます。建物を管理する側から見ると、既にあるものをどう維持するかが仕事になります。

清掃を怠ると何が起きるか

放置したときに出てくる症状は、グリストラップが原因だとすぐには結びつかないものばかりです。

症状起きる場所
下水のような臭い厨房、その階の共用部
小さな虫(ちょうばえ)が出る厨房、排水溝の周り
排水が流れにくい・逆流する厨房のシンク、床の排水口
排水管が詰まる建物の配管全体
排水槽の汚泥が早く溜まる地下の排水槽

排水槽の清掃の間隔が短くなってきたら、グリストラップの管理を疑うのが実務の順番です。上流で止められなかった油が、そのまま下流に溜まっています。排水槽のほうは排水槽の清掃にまとめています。

ちょうばえの発生と防除はねずみ等の防除にまとめています。

上流で止めないと下流に溜まる1**厨房の油**ここで止め2グリストラップ放置すると素通りする3排水槽汚泥が早く溜まる4排水管・下詰まり、臭い、虫
上流で止めないと下流に溜まる

自分でやる手順

毎日・毎週の手入れは、道具をそろえれば自分たちでできます。特別な資格は要りません。

順番やること
1手袋・長靴・ゴーグルを着ける。換気する
2蓋を開ける(重いので必ず取っ手を使う)
3バスケットを引き上げ、中身をごみ袋へ
4水面に浮いた油をすくい取る(週1回程度)
5底の汚泥をすくい取る(月1回程度)
6バスケットと蓋を洗って戻す
7記録に日付と作業内容を書く

3までなら5分ほどで終わります。毎日の作業として閉店後の手順に組み込むと、続きます。

やってはいけないこと

やりがちなことなぜ問題か
油を溶かす洗剤を大量に流す溶けた油が下流で再び固まる
熱湯を流して流し込む同じく、配管の途中で冷えて固まる
バスケットの中身を排水口へ流すグリストラップの意味が無くなる
蓋を開けたまま離れる転落の危険。臭気も広がる
汚泥を下水に流す条例に触れることがある

「流して片づける」は、その場は片づいたように見えて、下流に移しているだけです。すくい取って燃えるごみなどとして処理する形にします。処理のしかたは自治体で決まりが違うので、下水道担当課に確認します。

毎日・毎週・毎月で作業が違う頻度やること毎日バスケットの中身を出す週1回水面の油をすくう月1回底の汚泥をすくう定期業者が槽ごと洗う
毎日・毎週・毎月で作業が違う

事故が起きている

グリストラップの清掃では、実際に人が亡くなる事故が起きています。建物を管理する側として、ここは知っておく必要があります。

原因どういう状況か
硫化水素などのガス汚泥が腐敗して発生する。深い槽に顔を入れると危ない
酸素の欠乏密閉に近い場所、地下の槽
転落蓋を開けたまま作業し、足を踏み外す
蓋による挟まれ重い金属の蓋。手を挟む、足に落とす
感染・けが割れた食器やガラス片が混ざっている

深い槽や、地下にあるもの、臭いが強いものは、自分たちで中に入らないのが原則です。換気とガスの測定をしたうえで、決められた手順で作業する必要があります。入るのは業者の仕事と割り切ります。

作業を1人でやらせない

深い槽や地下のグリストラップでは、倒れたときに気づく人がいるかどうかが生死を分けます。ガスは無色で、気づいたときには動けなくなることがあります。

一般には、次のようにしている建物があります。

  • 深い槽の作業は、必ず2人以上で行う
  • 1人が槽の外で見ている(中を見る係をやめない)
  • 異変があったら自分は入らずに人を呼ぶ(助けに入った人が二次被害に遭う)
  • 換気を先に始め、作業中も続ける

「助けに入って一緒に倒れる」が、この種の事故でいちばん多い形とされています。手順の紙に、救助に入らないことを1行書いておきます。

開けたら囲う

蓋を開けている間は、その場を離れない。やむを得ず離れるときは、コーンや柵で囲うか、蓋を戻します。厨房は人の出入りが多く、開いた穴は見えにくい位置にあります。

「5分だから」で開けたままにした穴に、別の人が落ちるというのが、いちばんよくある形です。

清掃で起きている事故原因どこでガス・酸素欠乏深い槽。地下転落開けたまま離れた穴蓋の挟まれ重い金属の蓋**助けに入る****二次被害。いちばん多い**
清掃で起きている事故

業者に頼む範囲

毎日・毎週の手入れを自分たちでやっていても、槽全体の清掃は定期的に業者へ頼むのが一般的です。

業者がやることなぜ自分たちでは難しいか
汚泥の抜き取り量が多い。バキューム車が要る
槽内と配管の洗浄高圧洗浄の道具が要る
抜いたものの処理廃棄物として適正に処理する必要がある
配管の詰まりの解消専用の道具と経験が要る

見積りを比べるとき

金額だけ並べても比べられません。次を同じ条件にしてから比べます。

  • グリストラップの数と、それぞれのおおよその容量
  • 年間の回数
  • 抜いた汚泥の処理費用が含まれるか、量による従量か
  • 配管の洗浄まで含むか
  • 作業できる時間帯(営業時間中が難しいか)

3つ目が金額の差になりやすいところです。汚泥の量は厨房の使われ方で変わるので、従量の見積りだと前回より増えることがあります。前回の実績量を伝えて見積りを取ると、比べやすい金額が出てきます。

処理の記録(マニフェストなど)が出てくるかも確かめておきます。建物として保管しておく書類です。

点検表テンプレート
様式をさがす

実際に使える様式が必要な方へ

清掃の記録や点検表を一から作るのは手間がかかります。既成の様式を使いたい方は点検板をご覧ください。

この様式をひらく
自分でやる範囲と業者に頼む範囲自分たちバスケット水面の油底の汚泥(すくう)資格は要らない業者汚泥の抜き取り槽内と配管の洗浄廃棄物の処理槽の中に入る作業はこちら
自分でやる範囲と業者に頼む範囲

テナントとの分担を決めておく

グリストラップは専有部の厨房の中にあることが多いため、日常の手入れはテナント側の仕事になるのが一般的です。ところが契約に書かれていない建物があります。

決めておくのは4つです。

決めることよくある形
日常の手入れバスケット・油のすくい取りはテナント
定期の汲み取り建物側でまとめるか、店舗ごとか
費用の負担実際の使用量に応じるか、一律か
退去のときの清掃原状回復の範囲に入れるか

4つ目が抜けていると、退去後に蓋を開けて驚くことになります。新しいテナントが入る前に清掃が必要になり、その費用の出どころで揉めます。入居のときに1行入れておくと後が楽です。

伝え方

否定から入ると協力が得られにくくなります。一般的な形を先に示す言い方が使いやすくなります。

> 一般には、閉店後にバスケットの中身を取り出して、週に1回は水面の油をすくっている店舗が多くあります。

あわせて、建物としての状況を共有するのも有効です。「この系統の排水槽の汚泥が前回より早く溜まっている」という事実は、注意より説得力があります。

使う道具をそろえておく

清掃が続かない理由の多くは、道具がその場に無いことです。厨房の一角に一式まとめて置いておくと、閉店後の作業に組み込めます。

道具用途
ゴム手袋・長靴直接触らない。滑らない
蓋を開ける取っ手(フック)重い蓋を素手で持ち上げない
油をすくうネット・ひしゃく水面のスカムを取る
スコップ・ちりとり底の汚泥を取る
ふた付きのバケツ取ったものをその場で密閉する
ごみ袋(厚手)破れにくいもの
ブラシバスケットと蓋を洗う

ふた付きのバケツが効きます。取ったものを開けたまま運ぶと、においが厨房と共用部に広がります。その場で閉じてしまえば、動線のどこにも残りません。

油を吸わせる資材もある

水面の油を、吸着材で吸わせて取る方法もあります。すくうより手が汚れにくく、時間も短くなります。メーカーが厨房向けの製品を出しているので、量と交換の頻度で費用を比べます。

ただし、吸わせたものは捨てる必要があります。「入れておけば消える」という道具ではありません。交換の周期も手順に入れておきます。

記録の残し方

グリストラップの清掃は、記録に残しておくと交渉と予算の材料になります。

残すもの内容
日常の手入れ日付、担当者、やったこと(チェック式でよい)
業者の清掃実施日、作業内容、抜いた量
廃棄物の処理処理の記録(マニフェストなど)
写真清掃の前後。状態の変化が分かる
次回の予定日周期から逆算した日付

写真を1枚残しておくと、次の清掃のときに比べられます。汚れ方が前回より早いなら、使い方が変わったか、日常の手入れが落ちている可能性があります。

日常の点検表の作り方は設備点検のやり方にまとめています。

よくある質問

グリストラップの清掃は義務ですか

下水道法や各自治体の条例で、排水に含まれる油分などの基準が定められており、それを超える水を流せないこととされています。清掃そのものの頻度を条例で定めている自治体もあります。所在地の下水道担当課で確認します。

深い槽の作業で気を付けることはありますか

1人でやらせないことです。ガスは無色で、気づいたときには動けなくなることがあります。槽の外に見ている人を置き、異変があっても自分は入らずに人を呼びます。助けに入った人が一緒に倒れるのが、この種の事故でいちばん多い形とされています。深い槽や地下のものは、業者に頼むのが原則です。

グリストラップの清掃は自分でできますか

バスケットの中身を取り出す、水面の油をすくう、底の汚泥をすくうところまでは、道具をそろえれば自分たちでできます。槽の中に人が入る作業と、汚泥の抜き取りは業者に頼むのが原則です。ガスと酸素欠乏の危険があります。

どのくらいの頻度で清掃しますか

一般には、バスケットが毎日、水面の油が週1回程度、底の汚泥が月1回程度、槽全体の清掃を定期的に業者へ、という形をとる店舗が多くあります。厨房の使われ方で変わるので、実際の汚れ方に合わせて調整します。

油を溶かす洗剤を流してもよいですか

溶けた油は、配管の途中で冷えて再び固まります。下流に問題を移すことになるため、すくい取って処理するのが基本です。微生物を使う製剤などを使う場合も、業者や自治体に相談してから決めます。

取り出した油や汚泥はどう捨てますか

下水に流し戻さないのが大前提です。そのうえで、事業から出たものの扱いは自治体と量で変わります。少量を店舗の一般廃棄物として出せる地域もあれば、産業廃棄物として処理するよう求められる地域もあります。所在地の下水道担当課と廃棄物担当課に、最初に1回聞いておくと、以後は迷いません。

業者に頼む間隔はどう決めますか

決まった年数があるわけではなく、実際の汚れ方で決まります。開けたときに油の層がどれだけ厚いか、汚泥が底からどれだけ立ち上がっているかを、写真で残しておくと判断できます。日常の手入れが続いている厨房では間隔を伸ばせますし、揚げ物が多い店舗では逆に短くなります。

臭いが取れません

槽の汚泥が残っているか、配管の中に付着している可能性があります。すくい取るだけでは届かない部分なので、高圧洗浄を含む清掃を業者に依頼します。排水槽まで汚泥が流れている場合もあるので、そちらの清掃時期も確かめます。

まとめ

グリストラップの清掃は、層ごとに作業と頻度が違います。バスケットが毎日、水面の油が週1回程度、底の汚泥が月1回程度、槽全体は定期的に業者へ。この4段階に分けて、それぞれ誰がやるかを決めるところから始めます。

いちばん効くのは毎日のバスケットです。ここを空けている厨房では、業者を呼ぶ間隔を伸ばせることがあります。日々の手間と年間の費用は交換できる関係にあります。

やってはいけないのは「流して片づける」ことです。洗剤で溶かしても熱湯で流しても、配管の途中で冷えて再び固まります。すくい取って処理する形にします。

専有部にあることが多いので、日常の手入れ・定期の汲み取り・費用の負担・退去のときの清掃の4つを、入居のときに決めておきます。特に4つ目が抜けていると、退去後に開けて驚くことになります。

そして、清掃では実際に人が亡くなる事故が起きています。ガス、酸素の欠乏、転落、重い蓋。深い槽や地下のものは自分たちで中に入らず、開けている間はその場を離れない。深い槽の作業は1人でやらせず、異変があっても助けに入らずに人を呼ぶ。この3つだけは、手順の紙に必ず書いておきます。

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