防火対象物使用開始届|消防法ではなく条例
目次
防火対象物使用開始届を消防法の中で探しても見つかりません。この届出は消防法に書かれていません。
根拠は、市町村が定める火災予防条例です。そのため、名前も期限も添付書類も、自治体ごとに違います。
結論:条例に基づき、使用開始の7日前までに消防署長へ
東京消防庁は、建物や建物の一部をこれから使用しようとする方は、使用を始める7日前までに、その内容を消防署に届け出なければならない、としています。
根拠は東京都火災予防条例56条の2です。横浜市では火災予防条例第73条が対応します。条番号が自治体ごとに違うのは、それぞれの市町村が自分の条例を持っているためです。
名前も少しずつ違う
「防火対象物使用開始届出書」「防火対象物使用開始(変更)届出書」など、様式の名前も自治体によって変わります。
近い市の様式をそのまま使うと欄が合いません。その建物を管轄する消防署の様式を取りに行くことになります。
届出者は建物を使う側
横浜市の記入例は、届出者の欄に建築主又はテナントオーナーを記入するとしています。工事をした会社ではありません。
テナントとして入る側が出す場面が多く、内装工事の段取りに紛れて抜けやすい届出です。
なぜ消防法ではなく条例なのか
消防法9条が、その仕組みを決めています。
かまど、風呂場その他火を使用する設備又はその使用に際し、火災の発生のおそれのある設備の位置、構造及び管理、こんろ、こたつその他火を使用する器具又はその使用に際し、火災の発生のおそれのある器具の取扱いその他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例でこれを定める。
火の使用に関する予防の細かいところは、国が全部を決めるのではなく、市町村の条例に委ねられています。建物の使い方や町の作りは地域で違うためです。
だから「全国共通の答え」が無い
この届出について調べると、自治体のページばかりが出てきます。検索した人が自分の市を探すことになるのは、制度がそうなっているからです。
この記事も、全国共通の手続きを説明するものではありません。どこを見ればよいかと、どの自治体でも共通している考え方を整理するものです。
条例を読みに行くなら例規集
自治体のページの案内だけでは足りないときは、その市町村の例規集で条例そのものを見ることになります。多くの自治体がウェブで公開しています。
「◯◯市 火災予防条例」で探すと出てきます。案内のページと条文で書きぶりが違うことがあるので、迷ったら条文の側を見ます。
政令の基準には従っている
条例は自由に作れるわけではなく、条文は「政令で定める基準に従い」としています。だから自治体ごとに違っても、骨格は似ています。
7日前という期限は、多くの自治体で共通しています。ここが大きく違うことは、まずありません。
消防法側の届出と混ざりやすい
同じ建物について、消防法に基づく届出も並びます。ここを分けておかないと、どれを出したのか分からなくなります。
着工届は消防法17条の14です。甲種消防設備士は、政令で定める工事をしようとするときは、その工事に着手しようとする日の十日前までに、工事整備対象設備等の種類、工事の場所その他必要な事項を消防長又は消防署長に届け出なければならない、とされています。
設置届は消防法17条の3の2です。特定防火対象物その他の政令で定めるものの関係者は、消防用設備等を設置したときは、その旨を消防長又は消防署長に届け出て、検査を受けなければならない、とされています。
出す人が違う
着工届を出すのは甲種消防設備士です。設置届を出すのは関係者、使用開始届を出すのは建物を使おうとする者です。
3つとも出す人が違います。工事業者が全部やってくれると思っていると、使用開始届だけが残ります。着工届と設置届については消防用設備等設置届にまとめています。
期限も違う
着工届は工事着手の10日前、設置届は設置したとき、使用開始届は使用開始の7日前です。
並べると、着工届がいちばん早く、使用開始届がいちばん後になります。10日前と7日前を取り違えないようにします。
いつ出すか
「使用開始の7日前まで」の数え方は、自治体の案内に従います。窓口が開いていない日には出せないので、余裕を見ることになります。
工事の計画の届出が先にあることもある
東京消防庁は、防火対象物の工事等計画の届出を行った場合の扱いについても案内しています。自治体によっては、工事に入る前の計画の届出と、使用を始める前の使用開始届の2段になります。
どちらが要るかは、工事の規模と自治体で変わります。
開店日から逆算する
飲食店や店舗では、開店日が先に決まっています。そこから逆算すると、内装工事の完了・消防の検査・使用開始届が最後の1週間に固まります。
ここで届出が1つ抜けると、開店が動きます。逆算の表を作るときに、届出を工程の1行として入れておきます。
検査の日程は先に押さえる
設置届を出すと検査があります。消防法17条の3の2が「届け出て、検査を受けなければならない」としているとおり、届け出れば終わりではありません。
検査は消防署の都合もあるので、希望の日に入るとは限りません。内装工事の完了予定が見えた時点で日程を相談しておくほうが安全です。
遅れそうなら早めに言う
工期が延びて届出が間に合わない、という形は起こります。黙って使い始めるより、先に相談するほうが収まります。
出していない状態で営業を始めると、あとから遡って書類を作ることになります。
飲食店や店舗では、開店日が先に決まっています。そこから逆算すると、内装工事の完了・消防の検査・使用開始届が最後の1週間に固まります。
ここで届出が1つ抜けると、開店が動きます。逆算の表を作るときに、届出を工程の1行として入れておきます。
添付する書類
条例に基づく届出なので、添付書類も自治体が決めています。横浜市の様式は、防火対象物の用途、構造、消防用設備等又は特殊消防用設備等について記入する形になっています。
一般には、平面図、配置図、消防用設備等の配置が分かる図面、内装の仕上げが分かる資料などが求められます。押印は不要としている自治体もあります(横浜市の記入例)。
消防用設備等の欄は自分で書けない
様式には消防用設備等を書く欄があります。スプリンクラーや自動火災報知設備が、その区画にどう入っているかは、内装の図面を見ないと分かりません。
ここは工事業者に埋めてもらう部分です。届出の主体は自分でも、中身は工事側が持っています。早めに声をかけておきます。
図面は工事業者から先にもらう
届出に添える図面は、内装工事の図面がそのまま使えることが多くなります。工事が終わってから探すと、担当者がもういません。
工事の途中で図面一式をもらっておくと、届出のときに困りません。
用途が変われば出し直す
「使用開始(変更)届出書」という名前になっている自治体があるとおり、使い方が変わったときも対象になります。
同じテナントのまま業態が変わる場合も、確認することになります。用途の変更については用途変更にまとめています。
使い始めに出す書類の組
使用開始届だけを覚えるより、建物を使い始めるときに出る書類のひとまとまりとして持っておくほうが抜けません。中心にあるのが防火管理者の届出です。
消防法8条1項は、学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、複合用途防火対象物その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、消防計画の作成、消火・通報・避難の訓練の実施、消防用設備等の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督などを行わせなければならない、としています。
定めたら届け出る
8条2項が続きます。権原を有する者は、防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
選ぶことと、届け出ることは別です。社内で決めただけでは終わりません。防火管理者については防火管理者にまとめています。
消防計画もセットで出る
8条1項が防火管理者の業務として挙げている最初のものが消防計画の作成です。防火管理者を定めたら、消防計画を作って届け出るところまでが1組になります。
使用開始届・防火管理者選任届・消防計画の届出。この3つが、使い始めの時期に重なります。消防計画については消防計画にまとめています。
火を使う設備があればもう1つ
飲食店のように火を使う設備を入れる場合、その設備についての届出が別にあります。東京都火災予防条例では、当該工事に着手する日の7日前までに、設置場所を管轄する消防署長へ提出するとされています(同条例57条1項)。
使用開始届と同じ7日前ですが、数える起点が違います。片方は工事の着手、もう片方は使用の開始です。火気使用の届出については火気使用届にまとめています。
出さないとどうなるか
条例に基づく届出なので、罰則も条例にあります。東京都火災予防条例では、届出をせずに防火対象物を使用した場合について10万円以下の罰金が定められているとされています(同条例67条の2)。
金額の大小より効くのは、消防の側が建物の存在を知らないまま使われるという状態です。
罰則より重いのは信用のほう
金額そのものより、テナントとして入っている建物で「うちだけ出していなかった」という形になるのが痛いところです。ビルの管理会社や貸主から見れば、管理の甘いテナントに見えます。
次に別の物件を借りるときにも響きます。出すこと自体は1枚で済むので、忘れないようにするほうが安く付きます。
立入検査で見つかる
消防署は建物に立入検査を行います。そのときに、届出が出ていないことが分かります。
「知らなかった」で済む場面ではありますが、そこから遡って書類を作ることになります。工事の図面が残っていないと、そこで止まります。
防火管理の手続きと一緒に見る
建物を使い始めるときには、防火管理者の選任や消防計画の届出も出てきます。使用開始届だけを単独で覚えるより、使い始めのときに出す書類の組として持っておくほうが抜けません。
防火管理者については防火管理者、消防計画については消防計画にまとめています。
まとめ
防火対象物使用開始届は、消防法ではなく市町村の火災予防条例に基づく届出です。消防法9条が、火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は「政令で定める基準に従い市町村条例でこれを定める」としているためです。
期限は使用を始める7日前までで、出す先は管轄の消防署です。東京都は火災予防条例56条の2、横浜市は同条例第73条が根拠になります。条番号も様式の名前も自治体ごとに違います。
出すのは工事をした会社ではなく、建築主またはテナントオーナーです。同じ建物について並ぶ消防法の届出とは、出す人も期限も違います。着工届は甲種消防設備士が工事着手の10日前まで(消防法17条の14)、設置届は関係者が設置したとき(消防法17条の3の2)、そして使用開始届は使う側が7日前までです。
添付書類も自治体が決めています。平面図や消防用設備等の配置が分かる図面が中心で、工事が終わってから探すと手に入りません。
東京都火災予防条例では、届出をせずに使用した場合について10万円以下の罰金が定められているとされています。
まず手を付けるなら、その建物を管轄する消防署のページで、様式と添付書類の一覧を取るところからです。近い市のものは使えません。
なお、この記事は東京都と横浜市の例を挙げています。適用される条例・様式・期限・添付書類は市町村ごとに違うため、最終的には建物を管轄する消防署にご確認ください。
この届出は、名前が長いわりに中身が薄く見えます。用途と構造と設備を書いて出すだけです。だから忘れられます。
ただ、これは消防が建物の存在を知る入口です。ここが出ていないと、その建物は消防の側から見えていません。点検も訓練も、見えている建物に対して回っていきます。最初の1枚が抜けていると、後ろが全部ずれます。
よくある質問
防火対象物使用開始届は消防法のどこにありますか。
消防法にはありません。市町村の火災予防条例が根拠です。東京都は同条例56条の2、横浜市は第73条にあたります。
いつまでに出しますか。
使用を始める7日前までとしている自治体が多くなっています。ただし条例ごとに決まるため、管轄の消防署の案内で確かめます。
誰が出しますか。
建物や建物の一部を使おうとする側です。横浜市の記入例では、届出者の欄に建築主またはテナントオーナーを記入するとされています。工事をした会社ではありません。
着工届や設置届とは違いますか。
違います。着工届は消防法17条の14で甲種消防設備士が工事着手の10日前まで、設置届は消防法17条の3の2で関係者が設置したときに出して検査を受けます。使用開始届は条例に基づき、使う側が出します。
なぜ自治体ごとに違うのですか。
消防法9条が、火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は政令で定める基準に従い市町村条例で定める、としているためです。ただし政令の基準に従うので、骨格は似ています。
何を添付しますか。
自治体が決めています。平面図や消防用設備等の配置が分かる図面が中心です。押印は不要としている自治体もあります。
様式はどこで手に入りますか。
建物を管轄する消防署のページです。条例が自治体ごとに違うため、近い市の様式では欄が合わないことがあります。案内で足りないときは、その市町村の例規集で条例そのものを見ます。
出さないとどうなりますか。
東京都火災予防条例では、届出をせずに使用した場合について10万円以下の罰金が定められているとされています(同条例67条の2)。
業態を変えるときも出しますか。
「使用開始(変更)届出書」という様式になっている自治体があります。使い方が変わるときも対象になることがあるので、管轄の消防署に確かめます。
防火管理者の届出も一緒に出しますか。
時期が重なります。消防法8条2項は、防火管理者を定めたときは遅滞なく所轄消防長又は消防署長に届け出るとしています。解任したときも同じです。使い始めの書類の組として、使用開始届・防火管理者選任届・消防計画の届出が並びます。
火を使う設備を入れる場合は。
東京都火災予防条例では、当該工事に着手する日の7日前までに設置場所を管轄する消防署長へ提出するとされています(同条例57条1項)。使用開始届と同じ7日前ですが、数える起点が工事の着手である点が違います。
近くの市の様式を使ってよいですか。
条例が違うため、欄も添付書類も合わないことがあります。その建物を管轄する消防署の様式を使います。