統括防火管理者とは?選ぶ建物と共同防火管理
目次
テナントごとに防火管理者を置いているのに、消防から「統括防火管理者は誰か」と聞かれた。1つの建物に複数の管理権原者がいる場合、建物全体をまとめて見る人を別に選ぶことが求められています。
この記事では、統括防火管理者を、対象になる建物、普通の防火管理者との違い、誰が選ぶのか、全体についての消防計画、実際に回すときの詰まりどころの順に整理します。対象の範囲と手続きは建物の用途と規模で変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所轄の消防署に確認してください。
結論:建物を分けて借りていると、全体を見る人が別に要る
統括防火管理者は、管理権原が分かれている建物で、全体の防火管理を行う人です。管理権原者とは、その部分について管理する権限と責任を持つ人のことで、おおまかに言えばビルのオーナーと各テナントを指します。
分かれている状態では、次のようなことが起きます。
1つ目は、避難の経路が途中で切れることです。自分の区画の中だけを見ていると、廊下や階段の状態は誰も見ません。
2つ目は、訓練がばらばらになることです。テナントごとに別の日に、別の想定でやっても、建物全体としては動けません。
3つ目は、火災のときの指揮が決まらないことです。誰が全体に指示を出すのかが決まっていないと、その場で止まります。
統括防火管理者は、この3つをつなぐ役割です。各テナントの防火管理者が無くなるわけではありません。それぞれの上に、全体を見る1人を置くという形になります。
対象になる建物
統括防火管理者を選ぶことが求められるのは、管理権原が分かれていて、一定の用途と規模にあたる建物です。
代表的なものを挙げます。
1つ目は、高層の建築物です。高さが31メートルを超える建築物。
2つ目は、特定用途が入る一定規模の建物です。飲食店、物販店、病院、旅館などが入っていて、階数と収容人員が一定以上のもの。
3つ目は、地下街です。
4つ目は、準地下街です。
判断は自分でしないほうが確実です。階数、用途、収容人員の組み合わせで決まるため、似た建物でも結論が変わります。所轄の消防署に建物の概要を伝えて確かめてください。対象なのに選任していないと、立入検査で指摘が出ます。
普通の防火管理者との違い
名前が似ているので混同されますが、見る範囲が違います。
| 見る範囲 | 決める人 | |
|---|---|---|
| 防火管理者 | 自分の管理権原の範囲(そのテナントの区画など) | その管理権原者 |
| 統括防火管理者 | 建物全体。共用部と、全体の避難と訓練 | 管理権原者が協議して決める |
統括防火管理者を置いても、各テナントの防火管理者は無くなりません。両方が必要です。自分の区画は自分で、共用部と全体は統括がという分担になります。
資格は、建物の規模によって甲種か乙種かが決まります。統括防火管理者には、防火管理者としての資格に加えて、統括防火管理者の講習を修了していることが求められる場合があります。どの資格が要るかは所轄の消防署に確かめてください。
誰が選ぶのか
統括防火管理者は、管理権原者が協議して決めます。1人のオーナーが勝手に指名する形ではありません。
進め方は4段です。
1つ目は、管理権原者を洗い出すことです。オーナー、各テナント、共用部の管理会社。誰が管理権原者なのかが曖昧な建物が多くあります。
2つ目は、協議の場を作ることです。全員が集まる会議を開くか、書面で意見をそろえます。
3つ目は、候補を決めることです。実務としては、ビルの管理会社の担当者か、いちばん大きな区画を持つテナントの担当者が就くことが多くあります。
4つ目は、選任の届出を出すことです。所轄の消防署へ、統括防火管理者を定めた旨を届け出ます。
協議した記録を残します。誰が集まって、いつ、何を決めたか。あとから「聞いていない」という話が出たときに、これが根拠になります。
全体についての消防計画
統括防火管理者が作るのは、建物全体についての消防計画です。各テナントの消防計画とは別のものになります。
書く中身は4つです。
1つ目は、全体の体制です。統括防火管理者と、各管理権原者の防火管理者の関係。火災のときの指揮の順番。
2つ目は、共用部の管理です。廊下、階段、エレベーターホール、機械室。誰が見回り、誰が直すか。
3つ目は、全体の避難です。どの階からどの階段へ逃げるか。避難の誘導を誰がやるか。
4つ目は、全体の訓練です。年に何回、いつ、どういう想定で。各テナントが参加する形にします。
各テナントの消防計画と、内容が矛盾しないようにします。矛盾していると、火災のときに動きが食い違います。全体の計画を先に決めて、それに合わせて各テナントが直すのが順番です。
実際に回すときの詰まりどころ
制度としては分かりやすいのですが、実際に回すと決まって詰まる場所があります。
詰まるのは4つです。
1つ目は、テナントが集まらないことです。営業時間が違い、担当者も忙しい。全員がそろう日は永遠に来ません。
2つ目は、訓練に参加してもらえないことです。「うちは関係ない」と言われます。
3つ目は、共用部に物が置かれることです。誰の責任かが曖昧な場所ほど、物が溜まります。
4つ目は、テナントの入れ替わりです。人が替わると、決めたことが引き継がれません。
1つ目は、集まる回数を減らすことで解けます。年に1回だけ全体会議を開き、あとは書面で回す。集まる日を年度の初めに決めて、1年分の予定を配ると参加率が上がります。
訓練を1回にまとめる
テナントごとの訓練を別々にやると、全体としては動けません。年に1回は、建物全体で同じ日にやります。
やり方は4つです。
1つ目は、短くすることです。30分で終わる形にします。長いと参加が減ります。
2つ目は、営業時間を避けることです。開店前か閉店後。全員が動ける時間を選びます。
3つ目は、役割を先に配ることです。通報、初期消火、避難誘導。当日に決めると、その場で止まります。
4つ目は、参加者を記録することです。テナント名と人数。参加していないテナントが分かる形にします。
参加していないテナントを責めない形にします。次の年に来てもらうことが目的です。訓練の内容と、参加して良かった点を書面で回すと、翌年の参加が増えます。
共用部の見回りを分担する
共用部は、誰の担当でもない場所になりがちです。分担を決めます。
決めるのは3つです。
1つ目は、範囲です。階ごとか、区画ごとか。図面に線を引いて分けます。
2つ目は、見る項目です。避難の通路に物が無いか、防火戸の前が空いているか、非常口が開くか。3つで足ります。
3つ目は、頻度と担当です。週に1回、誰が回るか。管理会社が回る建物が多くありますが、テナントにも自分の前を見てもらう形にすると早く直ります。
見つけたものは、写真を撮ってその場で連絡します。月末にまとめて報告すると、そのあいだ置かれたままになります。
入れ替わりに備える
テナントが入れ替わると、決めたことが消えます。引き継ぐ仕組みを、契約と書面に埋め込みます。
備えるのは3つです。
1つ目は、入居のときに渡す書面です。全体の消防計画の要点、訓練の日、防火管理者の届出の案内。入居の説明の中に入れます。
2つ目は、防火管理者の届出を確かめることです。テナントの区画に防火管理者が要る規模なら、選任して届け出ているかを確かめます。
3つ目は、連絡先の更新です。担当者の名前と電話番号。年に1回は全テナントに確かめ直します。
入れ替わりの多い建物では、3つ目がいちばん効きます。火災のときにつながらない連絡先が並んでいる名簿は、無いのと同じです。
選任の届出と、変わったときの手続き
統括防火管理者を決めたら、所轄の消防署へ届け出ます。変わったときも、そのつど届け出ます。
出す場面は4つです。
1つ目は、はじめて選任したときです。
2つ目は、人が替わったときです。担当者の異動、退職。
3つ目は、全体についての消防計画を作成したとき、変更したときです。
4つ目は、建物の用途や規模が変わったときです。対象かどうかが変わることがあります。
届出の控えは、選任の順に綴じて残します。いつから誰が就いていたかが分かる形にしておくと、立入検査でそのまま示せます。様式と提出の方法は自治体で違うので、所轄の消防署に確かめてください。
建物の図面を1枚にまとめる
統括防火管理者が最初にやると効くのは、建物全体の図面を1枚にまとめることです。テナントごとに図面が分かれていると、全体の避難が見えません。
まとめるのは4つです。
1つ目は、階ごとの平面図です。各テナントの区画の線を入れます。誰の範囲かが一目で分かる形にします。
2つ目は、避難の経路です。どの区画から、どの階段へ向かうか。矢印で書きます。階段が2つある建物では、どちらへ行くかを区画ごとに決めます。混ざると、片方に人が集中します。
3つ目は、消防設備の位置です。消火器、屋内消火栓、発信機、防火戸、防火シャッター。
4つ目は、閉じてはいけない場所です。防火戸の可動範囲、シャッターの下、非常口の前。ここに物を置かないという線を、図面に描いておきます。
1枚にまとめた図面は、テナント全部に配ります。自分の区画しか知らなかった人が、建物全体を知ることになります。訓練の説明も、この1枚があるだけで短く済みます。
年間の予定を1枚にする
統括防火管理者の仕事は、年に数回しかありません。だからこそ、予定にしないと流れます。
書き込むのは4つです。
1つ目は、全体会議の日です。年に1回。年度の初めに決めます。
2つ目は、全体訓練の日です。年に1回か2回。営業時間を避けた時間帯で決めます。
3つ目は、消防設備点検の日です。テナントの専有部に立ち入る日程を、先に知らせておく必要があります。
4つ目は、名簿と連絡先の更新の月です。年に1回か2回。
4つを1枚にして、年度の初めに全テナントへ配ります。予定が分かっていれば、当日に人を出してもらいやすくなります。直前に知らせる年ほど、参加率が下がります。
まとめ
統括防火管理者は、管理権原が分かれている建物で、全体の防火管理を行う人です。
- 対象は、高層の建築物、特定用途が入る一定規模の建物、地下街、準地下街
- 各テナントの防火管理者は無くならない。その上に全体を見る1人を置く
- 管理権原者が協議して決め、所轄の消防署へ届け出る
- 作るのは建物全体についての消防計画。体制・共用部・避難・訓練の4つ
- 詰まるのは、集まらない・訓練に来ない・共用部に物が置かれる・入れ替わる の4つ
対象の範囲も必要な資格も、建物の用途と規模で変わります。自分の建物に何が適用されるかは、所轄の消防署に確認してください。
よくある質問
Q. テナントが1つしかない建物でも要りますか。 A. 管理権原が分かれていなければ対象になりません。オーナーが1人で、テナントも1つなら、普通の防火管理者だけで足りることがあります。所轄の消防署に建物の概要を伝えて確かめてください。
Q. 統括防火管理者は、ビルのオーナーがやるべきですか。 A. 決まりはありません。実務としては、管理会社の担当者か、いちばん大きな区画を持つテナントの担当者が就くことが多くあります。建物に常駐しているかどうかが、実際には効きます。
Q. 各テナントの防火管理者は、置かなくてよくなりますか。 A. 無くなりません。両方が必要です。自分の区画は自分の防火管理者が、共用部と全体は統括防火管理者が見ます。
Q. 統括防火管理者になるには、どの講習が要りますか。 A. 防火管理者としての資格に加えて、統括防火管理者の講習の修了が求められる場合があります。建物の規模で甲種か乙種かも変わります。所轄の消防署に確かめてください。
Q. 協議がまとまりません。 A. まとまらない状態で放置しないことです。所轄の消防署に相談してください。選任していないこと自体が指摘の対象になります。案を1つ出して、反対が無ければ決まるという進め方にすると動きます。
Q. 全体についての消防計画は、誰が作りますか。 A. 統括防火管理者が作ります。実務としては管理会社が原案を書き、各テナントに確かめてもらう形が多くあります。作ったら届け出ます。
Q. 訓練にテナントが来ません。 A. 時間を短くし、営業時間を避け、年度の初めに日付を配ってください。参加率は、内容よりも日程の決め方で変わります。契約書や館内規則に参加を書いている建物もあります。
Q. 共用部に物を置くテナントがいます。 A. 写真を撮ってその場で連絡します。置き場が他に無いことが原因のことが多いので、置いてよい場所を用意すると早く解決します。改善されない場合は、所轄の消防署から指導が入ることがあります。
Q. 建物の一部が空室です。空室も範囲に入りますか。 A. 入ります。空室でも避難経路の一部であり、火災の原因になる物が置かれることもあります。鍵の所在と、中を見る頻度を決めておいてください。
Q. 防災管理者とは違うものですか。 A. 違います。防災管理は、火災以外の災害(地震など)に備えるものです。対象になる建物では、統括防災管理者を選ぶことが求められる場合があります。所轄の消防署に確かめてください。
Q. 届出の様式はどこにありますか。 A. 消防本部のホームページに掲載されていることが多くあります。様式は自治体で違うので、自作せず、所轄の消防署のものを使ってください。
Q. 統括防火管理者が異動でいなくなりました。 A. 空席のままにしないことです。後任を協議して決め、届け出ます。異動の時期が分かった時点で協議を始めると、空白の期間を作らずに済みます。
Q. 全体の図面を作るのに費用がかかりますか。 A. 既にある図面に線を書き足す形で足ります。竣工図があれば、それを縮小コピーして手書きで構いません。きれいに作ることより、全テナントに行き渡ることが大事です。